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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

オオタカとコガモの攻防戦

2011年11月30日
秋田
 突然ですが・・・『もし自分に羽があって鳥のように自由に暮らす場所を選べるとしたら?』なんて質問をされたり、考えて見たことはありませんか?あれこれ想像してみるのは楽しい時間ですが、実際に自由に動き回れる野鳥たちってどうして今いる場所を選んでいるんでしょうかね?


 私たちは野鳥の生息環境を考えるとき、単純にカモやサギは水辺、カラ類は山や林などを漠然と考えがちです。しかし事はそれほど簡単ではなく例えばカモについて細かく見ていくと塒となる安全性の高い水辺と餌が豊富でそれを得やすい環境が整った水辺などいくつかの条件が整っていることが鍵になるようです。なので今、私たちの周りで暮らす野鳥たちはそれぞれにそれぞれの生活に必要な環境条件を満たす場所を選んで生息しているわけです。

 
 大潟村やその周辺の水辺にはたくさんの【コガモ】がやってきています。ここが他の地域よりに比べて越冬するカモの中でコガモの生息割合が高いのは西部承水路や南の池など水深の浅い水辺が広く存在することが大きな理由ではないか?と考えています(あくまでも私の推察ですけど・・)。
 大潟村やその周辺は日本にやってくるカモの中で最も小柄な【コガモ】にとって塒として利用できる安全性の高い水辺と、水深が浅く餌が採りやすい水辺が広範囲にあって過ごしやすいと思われる反面、彼らを狙う猛禽類たちも多く生息しているため天敵である猛禽類に常に命を狙われている危険と隣り合わせで生活しています。

 一方、【オオタカ】は大潟村内で繁殖もしており(厳冬期のごく一時期を除いて)ほぼ年間を通じて観察する事が出来ます。彼らにとって大潟村は繁殖のための巣を構えられる安心できる林地があって、生きるための食料調達が年間を通じて可能なエリアであるが為にここで生活しているのだと考えます。


 
 この時期、【コガモ】と【オオタカ】はそれぞれの特徴、能力、生きるための戦略などを駆使した攻防戦を毎日毎日繰り広げています。


 水辺近くの木の上から狙いを定めて飛び込んでいく【オオタカ】です。分かりにくいかも知れませんが松の木の左側に写っています。遠く離れた管理棟の2階からも丸見えだったので池にいるカモ達は当然それを承知していたはずです。
 
 こうした場面は1日に何度も何度も観察できます。つまりは狩りが得意だと思われる【オオタカ】も百発百中からはほど遠く、獲物を狩ろうと飛び込んでいっても失敗するときの方が多いと言うことです。


 【コガモ】も自分たちを狙っている【オオタカ】に対して攻撃を受けにくい場所であったり、相手から離れる等と積極的に動き回って防御につなげています。
 この写真の時の【コガモ】にはやや余裕がありました。スピードも超本気ではなくまだいくらかの余力があるようでしたし、着水時も余裕を持ってスライディングして来ました。【コガモ】達は【オオタカ】等に狙われて、本当に危険だと判断するとマックスのスピードで飛んでいる状態から水中めがけてそのまま飛び込んできます。着水の衝撃など気にしている余裕がないほど切迫している事がよく分かる行動です。
 それに比べるとこの時の【コガモ】達からはかなりの余裕を感じます。きっと【オオタカ】はいつにも増して悔しい思いをしていたのではないでしょうか?


 こうして【オオタカ】と【コガモ】の攻防戦は一区切りを迎えます。【オオタカ】は再び見通しの利く木の上に陣取って次の狙いを定めるかのような動きを見せます。【コガモ】はというと・・・


 逃げるために急激に運動をしたのでクールダウンさせるかのようにあちこちで羽ばたきが見られ、その後羽繕いを始めます。次のラウンドに備えて万全の準備をするつもりのようです。


 この攻防戦はカモが生息している大潟村やその周辺で日常的に見られる光景です。以前もこの日記でお伝えしていますがそれからも毎日のように繰り広げられてきた光景ですし、きっとこの先しばらく続く光景でしょう。今回は【オオタカ】と【コガモ】の攻防をお伝えしましたが、この他にも攻撃側にはハヤブサやチュウヒなどがいますし、防御側にもたくさんのカモなどがいます。

 
 こうしてみていくと・・・野鳥の生息環境を保全すると言うことは単に水辺や林地を今のまま残せば良いと言うことではなく、その生き物の「食」「住」など様々な生活場面を想定しなければなりません。でもそれって自分に置き換えてみれば当たり前な事だったりしませんか?