東北地域のアイコン

東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

クマを体感するツアー

2024年04月02日
アクティブ・レンジャー東北地区 中園 顕三
こんにちは。アクティブ・レンジャーの中園です。
今回は、3/19に秋田八幡平で行われた「ツキノワグマ痕跡観察ツアー」モニターツアー(地域の観光関係者向け)の様子を紹介します。
 
十和田八幡平国立公園の後生掛地区は、ツキノワグマの生息密度が高いエリアです。
豊かな自然環境が保たれているこの場所において、環境省と八幡平ビジターセンターでは出没状況調査と来訪者への啓発を継続的に行っています。
近年、特に北東北においてはクマとの接触による人的被害が多発しており、今後は更なる対策と普及啓発が求められています。
そのような状況において、国立公園の魅力を伝え安心して体験して頂くために、野生のクマの生態やクマ対策について学び、クマが棲むことのできる豊かな森の価値を体感するプログラムを展開しています。
第1回が昨年7月26日に行われ、今回は第2回のモニターツアー開催となりました。
今回のツアーでは、八幡平ビジターセンター職員の方々のガイドのもと、地域の観光関係者の方々が参加し、これに私も同行しました。
スノーシュー装着
クマの棲む森へ
秋田八幡平スキー場がある山毛森(ぶなもり)に、スノーシューを装着して入って行きます。
昨日は降雪もありたっぷりの雪、朝から青空が広がるこの日はスキー客も大勢来ていました。
雪の量が多く、雪質も景色もいいという評判のスキー場です。
ゲレンデから森に足を踏み入れると、名前の通りブナが広がっていました。
 
まず、観察したのが樹木の冬芽(とうが、ふゆめ)。
ブナが優勢であるとは言え、実際には様々な樹木が生い茂っています。
冬の季節、樹種を特定するのに有効なのが冬芽を観察することです。
なぜなら、冬芽は木ごとに特徴的な形態をしているからです。
ツキノワグマの痕跡が目当てなのに、なぜ冬芽? その答えは後に分かります。
ブナの冬芽
キハダの冬芽
これからの季節、葉や花の元になるものです。
近くでじっくりと観察すると、何だか表情のように見えてくるのが不思議です。
「キハダの冬芽はピエロです。」と言われた時、最初は理解できなかったのですが、一度そう見えると強烈に印象に残ってしまいます。
覚えることよりも、まず感じることが重要なのかもしれません。思わず触りたくもなります。(その時はやさしく、ゝ)
爪痕の観察
爪痕と樹皮剥ぎ
クマの爪跡は今まで何度も見たことがありますが、これほどまでに明瞭で数多くのものを見たのは初めてです。
もし自分ひとりだったら、ゾッとして居られなくなるほどです。
この爪痕はいつ頃付けられたのか、クマの大きさはどれくらいなのか、前足と後ろ足、登る時と降りる時の差異など、ガイドが分かりやすく解説をしてくれます。
 
クマの巣穴
洞内の爪痕
途中で木の根元に開いた大きな樹洞を発見。周囲の雪が崩れてこないかなど、事前によく安全を確認した上で中に入ってみます。よく見ると内側には古いクマの爪痕もあり、かつてクマが冬眠に使ったことがあったのか?などなど、想像が膨らみます。
※なお、今回はガイドの指導の下、安全に注意して行っていますので、安易に真似をしないようにお願いします。

 
クマの調査体験
クマ棚
樹上にはクマ棚
今回のツアーでは、クマ棚の数を数えたり、爪痕の大きさを測ったりする調査を体験することもできました。
1本の樹木から、クマの痕跡についての様々な情報を見つけて記録します。
実際にクマの痕跡調査を行っているガイドの話を聞くことで、疑問を持ち考えることの大切さを感じました。
漫然と自然を見ているだけでは気づかないことが多々あり、注意深く観察することがクマとの無用な接触を回避する唯一の方法ではないか、そんなことも考えました。
  
クマは森林生態系において最上位に位置している存在であり、森の豊かさの象徴でもあります。
食べ物についてもブナの実などのドングリだけでなく、多種多様な樹木の若葉や実を食べることが今回のツアーで分かりました。
冒頭で「ツキノワグマの痕跡が目当てなのに、なぜ冬芽?」と投げかけていましたが、冬芽の種類を知っておくことも、クマの食性をうかがい知る上で必要な知識だった訳です。
今回、私は一般参加者の目線でツアーに参加しましたが、スタッフのみなさんのホスピタリティ、自然体験プログラムの醍醐味を十分に感じることができました。これからクマのことやクマの暮らす森のことを知りたい方、クマ対策に取り組む方にも、ぜひ体験してほしいと思います。