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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

森の地衣類観察会を開催しました!

2024年09月25日
秋田 大亀那月
みなさんこんにちは 秋田事務所の大亀です!

今月は森吉山野生鳥獣センターで「森の地衣類観察会」を開催しました。

まず今回の主役、地衣類について解説いたします。
地衣類とは「菌類と藻類の共生生物」のことであり、菌が藻類の栄養を貰う代わりに藻類に安定した生息環境を提供しています。
○○ゴケという名前の種や、外見が似ていることからコケ類(蘚苔類)と混合されがちですが、コケ類は植物、地衣類はキノコやカビの仲間です。この記事にも○○ゴケという名前がたくさん出てきますが、正しくコケ類に属しているのはスギゴケのみです。ややこしいですね…
欄干に付着した蘚苔類と地衣類
上側は蘚苔類だが、側面に付着するのは地衣類。
先生からルーペのレクチャーを受けた後、実際に屋外に出て観察スタート。
センターの目の前に植えられた樹木にも地衣類が生息しています。

見分けがつかないほどたくさんの地衣類が付着しており、ここでは地衣類の定義をお話しいただきました。
先生の説明ですと、地衣類は見えている側(背面)と付着する側(腹面)の色が異なるそうで、腹面が黒いことが地衣類の特徴だといいます。背面には胞子を飛ばす器官である子器があるので、ルーペを使うと良く見ることが出来ます。
※地衣類は胞子を飛ばす有性生殖と体の一部を剥がす無性生殖があるためこの子器をつけない種類もあります。
地衣類観察会スタート
ルーペは対象物に近づいて使います。先生のお手本
ルーペで観察
葉状地衣のカラクサゴケが付着した枝
地衣類の区別は様々な要素でされていますが、地衣体の形状で分ける方法があります。
①樹状地衣:地衣体が立ったり垂れている。(カラタチゴケ)
②葉状地衣:薄い紙状で、表裏がはっきりしている。裏には張り付くための偽根がある。(アンチゴケ)
③痂状地衣:非常に薄く木や岩そのものの模様だと勘違いされる。菌糸で張り付く。(ヘリトリゴケ)
 
モジゴケの観察
白い部分にはモジゴケが付着。ひも状の子器が文字のように見える。
様々な地衣類
上の薄緑の葉にみえるものが「葉状地衣」。濃い黄緑で薄く固着するのが「痂状地衣」
ブナ林によく見られるトリハダゴケのなかまやカブトゴケ、アンチゴケなどを森吉でも確認できました。
トリハダゴケは見た目が鳥肌のようにぼつぼつしているためこの名前がつけられました。
地衣類は生きた木に付着し風通しが良く乾いた面を好みます。同じ菌類のキノコは腐敗した木に生えています。この写真には白いトリハダゴケとオレンジ色のキノコが写っていますが、やがてキノコにとって居心地のいい木になり、地衣類が好まない環境に移り変わることが考えられます。
 
キノコとトリハダゴケとカラタチゴケ
下の白いぼつぼつが「トリハダゴケ」で右側のオレンジ色のが生え始めたキノコ。真ん中はカラタチゴケ。
さらに奥へ進んで地衣類を観察
大木にはカブトゴケが付着していました。
カラタチゴケ
もこもこと付着しているのが「カラタチゴケ」の仲間
当初予定したルートを変更し、立川橋の方へ行きました。
そこには木の幹にびっしりとカブトゴケを発見。カブトゴケは大気汚染に弱いため、この場所の空気が綺麗だという証です。少々採取して、あとでじっくり観察することになりました。

地衣類は木だけでなく岩にも生息します。下の写真は岩に固着したヘリトリゴケです。白い部分はまるで岩のように見えますがこれらすべてが地衣類。気付かず見過ごしてしまいそうですがしっかりカメラに収めてきました。
大量のカブトゴケ
幹にびっしりカブトゴケ
岩に付着するヘリトリゴケ
白い部分は岩の色ではなくヘリトリゴケの色。岩に固着する痂状地衣。
ヘリトリゴケ
ヘリトリゴケのなかまをズームアップ。
下の写真は蘚苔類と地衣類が付着する欄干橋です。
湿った場所を好む蘚苔類は雨水が残る欄干の上部に付着していますが、そうではない地衣類は雨水が流れ落ちやすい側面に付着しています。同じ木ではありますがそれぞれが過ごしやすい環境を選んでいることが分かる良い例です。
しゃがんで欄干の側面の地衣を観察
欄干の蘚苔類と地衣類
欄干の上部は蘚苔類。側面は地衣類が付着している。
雨が降っていたのでセンターに戻って採取したカブトゴケやアカミゴケの仲間を観察することになりました。
先生と今回見つけた地衣の振り返りをしながら、みなさん思い思いに質問を出し合いまるで勉強会のような雰囲気に。ルーペを使ってじっくり観察すると屋外では見られなかった細やかな部分まで見えてきます。
センター内で観察
先生に質問しながら今日の振り返り。
採取したカブトゴケ
採取したカブトゴケ。
ルーペで観察
図鑑やルーペでじっくり観察。
今回は観察会の後に先生も加えてみなさんとクラフト体験をおこないました。
9月は「ブナで苔玉作り」でしたのでブナ林を歩き地衣類について学んだあとにぴったりですね。苔玉にはスギゴケの仲間を使いました。ややこしいですがこれは緑の鮮やかな蘚苔類です。鉢に土とブナの苗を植え、苔をそっと乗せたら完成です。
苔を2種類使うなど、ブナの形大きさにも個性が出てかわいい苔玉が出来上がりました。作成したブナの苔玉は参加者されたみなさんのご家庭で大切に育てていただいております。
※今回使用した苔とブナの苗木はNPO法人冒険の鍵クーンさまの苗畑で育てられたものです。森林の保全のため、森から直接採取することはお控えいただけますと幸いです。

観察会で使用した冊子はセンターの本棚に保管してあります。こちらは原先生からのご厚意で寄贈いただいたものです。初心者にも優しく地衣類の基礎を教えてくれるのでぜひご覧ください。
今年度は次回の「樹木観察会」で最後になります。樹木医目線で森吉のブナ林を歩きましょう。観察会と植樹をおこなうイベントで、森の見方が変わること間違いなしです。お申し込みお待ちしております。

 
土にコケを乗せる
好きなように苔を乗せていきます。
みなさんのこけだま
出来上がった苔玉。こだわりが見えて良い感じです。
寄贈いただいた冊子
新たに加わった図書。地衣類の基礎に関する冊子を原さんからいただきました。