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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

月山・弥陀ヶ原 雲の上に広がる田んぼ

2024年09月13日
羽黒 守屋明子
日本海に面し、出羽三山のある山形県庄内地方は、日本有数の米どころ。広大な庄内平野に広がる一面の田んぼは、この地方を代表する景観です。
 
今回はその庄内地方のとっておきの田んぼをご紹介します。それがあるのは山の上。「雲上の庄内平野」「神様の田んぼ」とも言われる、月山八合目の弥陀ヶ原湿原です。ちなみに、立山連峰の弥陀ヶ原湿原は、六道輪廻を表す立山曼荼羅に位置付けられ、「餓鬼の田」と表現されています。似たような景観でも歴史的な背景で呼び名がまったく異なるのが面白いですね。
 
さて、ここ弥陀ヶ原は噴火によって流れ出た溶岩が冷え固まって形成された溶岩台地。長い年月を経て泥炭が溜まり、湿原に変化していきました。池塘があちこちにちらばり、水面から顔を出す植物はまるで稲のよう。
 
弥陀ヶ原の標高は約1,400m。遮るものがなく、庄内平野や日本海が眼下に広がります。見通しの良い時には出羽富士と呼ばれる鳥海山、奥に男鹿半島、そして北東に目を向ければ奥羽山脈の山々を望むこともができます。さらに、6月頃からは雪解けに合わせて高山の花の競演が始まります。まさに別天の地なのです。
月山
ここが雲上の庄内平野。左奥に下界の庄内平野(無量坂から)
月山
神様が田植えをしたのかしら
月山
月山北面標高1,400mの高地にあります(矢印:鶴岡市側から)
月山
弥陀ヶ原東側。月山のテラスのような台地
そんな貴重な弥陀ヶ原には麓の鶴岡市から羽黒街道を経て、県道月山公園線がつながっています。車道終点からはわずかな距離で弥陀ヶ原へ到着。多くの人が月山の自然を満喫できる、月山からの贈り物のような場所です。
湿原には1周約2kmの木道が整備され、ゆっくり回っても2時間ほど。中央には月山中之宮(御田原神社)が鎮座し、参拝や観光の方も訪れます。
月山
月山中之宮(御田原神社:中央)と御田原参籠所(右)
月山
鳥居越しに望む月山山頂 くぐれば山頂に続く道へ
一方で弥陀ヶ原は鶴岡市羽黒側からの登山口です。そのため登山者の方には素通りしがち。山頂へ急ぐ場合はなかなかゆっくり観察もしていられないので、ここで2024年シーズン初夏から初秋の弥陀ヶ原の姿をまとめてお届けします。
 
6月末。弥陀ヶ原(月山八合目)への道路が開通。待ちわびていた人々を、雪解け後に咲き出した花々が出迎えてくれました。
月山
夏の弥陀ヶ原の代表選手・ニッコウキスゲが開花
月山
チングルマの群生。ピンクの点はイワカガミ
月山
ふっくらとした花が鈴なりのウラジロヨウラク
月山
ヒトが来る前に盛りが来ていたコバイケイソウ
月山
池塘の周囲をほんのり赤く染めるのはモウセンゴケ
月山
木道の先に月山山頂
7月中旬。弥陀ヶ原の中でも最後まで雪渓が残る東側(左回りルート方面)エリアではようやく雪が消失。ミズバショウが開花し、ようやく春が訪れていました。駐車場と逆の東側は利用者が比較的少ないエリア。静かな弥陀ヶ原をゆっくり楽しめます。
月山
中央の窪地が最後まで雪渓が残るエリア
月山
湿地を蛇行している緑のラインは何だろう
月山
水の流れに沿って芽を出したミズバショウでした
月山
ようやく開花
月山
水面に揺れるミツガシワ
月山
時折吹く強風に振り回されているワタスゲ
月山
池塘に浮かぶアカハライモリと影アカハライモリ
月山
一日花のニッコウキスゲ 今日だけの出会い
広い湿原は一見平坦に見えますが、細かい起伏のある複雑な地形です。積雪量や融雪スピードも場所によってまちまち。雪解けにしたがって進んでいく高山植物の開花は、一律ではなく場所によって差が生じます。
 
湿原を一周すれば、時には初夏の花・盛夏の花・晩夏の花が同日に見られ、山上の季節の移ろいを感じることができるのも楽しみの1つ。ちなみに月山は豊富な残雪を有することから山全体でも同じことが言えます。登山道沿いでも地形や融雪具合に応じていろいろな季節が同居している貴重な山です。咲いている花の特徴も調べてみて、「なぜここは今この花が咲いているんだろう?」と、花を通じて月山の不思議に触れてみてはいかがでしょうか。
 
8月初め。弥陀ヶ原の東側奥にある「オゼコウホネの池」に足を伸ばすと・・・。
月山
足袋のようなオゼコウホネの葉っぱ
月山
葉っぱの影に何か沈んでいる・・・
この池ではオゼコウホネが見られ、開花時期の8月初め頃には黄色い花が水面に出てくるのですが、今年はすでに花は終わり、水の中に沈んでいました。
がっかりした心は華やかな盛夏の花々が癒やしてくれました。
8月中旬。この花たちが咲き出すと、そろそろ夏も終わり。
月山
緑の中に淡い一角を作るエゾシオガマ
月山
木道のふちから見上げているエゾオヤマリンドウ
8月下旬。緑一色だった湿原も、植物や花の変化に伴って様々な色が混じってきました。
月山
だんだんと色づきつつある湿原
月山
やさしげな白い花びらのウメバチソウ
月山
可憐な頭を振るイワショウブ
月山
こちらは早くも実に変化
月山
名前だけで秋のイメージ・ミヤマアキノキリンソウ
月山
シロバナトウチソウに吸い付くベニヒカゲ
9月を過ぎると弥陀ヶ原の花は少なくなりますが、葉っぱがどんどん色づいていきます。9月下旬から10月初めには、草紅葉(くさもみじ)の金の絨毯に、低木たちの紅葉が錦を添えて、閉山前のフィナーレを飾ることでしょう。

弥陀ヶ原・月山情報はこちら
・弥陀ヶ原へ向かうアクセス道・月山公園線は例年降雪が始まる10月20日前後に冬期閉鎖となります。
・弥陀ヶ原は標高1,400mに位置する高山エリアです。事前に天気予報をご確認の上、万全の準備をしてお出かけください。
・秋は荒天時や早朝・夕方は気温が大幅に低下し、日没も早まります。
・木道は濡れると滑りやすくなります。雨や朝露、霜の場合は足元にご注意ください
・弥陀ヶ原の素晴らしい自然環境を次の世代へ引き継ぐため、美しい風景や多様な動植物は、木道や登山道の上から楽しみましょう。
 なお、弥陀ヶ原から月山一帯は国立公園の「特別保護地区」に含まれ、法律で厳正に保護されています。