東北地域のアイコン

東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

飯豊連峰エコツーリズム 石転び沢雪渓氷河ツアー

2024年09月10日
羽黒 守屋明子
8月10日(土)~8月11日(日)、飯豊連峰において「飯豊 石転び沢の氷河地形観察ツアー」(旅行企画・実施:一般社団法人やまがたアルカディア観光局 協力:NPO法人飯豊朝日を愛する会・小国山岳会・小国町観光協会)が行われました。
飯豊氷河ツアー
飯豊連峰に刻まれた氷河由来の地形を観察
飯豊氷河ツアー
温身平から石転び沢方面を望む
このツアーは、令和5年度に行われた環境省「自然資源を活用した上質なツーリズムの実現に向けた人材育成支援事業」に小国町エリアの関係者が参加し(本ツアー協力3団体からの参加)、そこで検討した行動計画を元にしたもの。数ある飯豊連峰の自然資源の中から、「氷河地形観察ツアー」が生み出されました。そのツアーにモニターとして参加しました。
 
飯豊連峰の「石転び沢」は大雪渓登攀を伴う登山上級者向けのバリエーションルートとしてその名が知られています。そこにあるのは急勾配で融雪に伴い刻々と変化する雪渓。登山者憧れのルートですが、硬くなった雪へのステップカットや、落石や雪渓崩壊のリスクを判断したルートファインディングが求められます。その石転び沢が、氷河によって作られた地形であるとは。憧れにさらに地球のロマンが加わりました!
 
1日目は天狗平ロッジからほど近い温身平(ぬくみだいら)で観察を兼ねた散策。温身平は石転び沢等の沢から運び出された土砂が堆積してできた平坦な場所で、飯豊連峰の歴史が現われています。その今の姿を、ゆっくり見て回りました。
飯豊氷河ツアー
美しいブナ林の温身平の成り立ちと自然に触れる
飯豊氷河ツアー
林道沿いの植物にも着目
2日目。明星大学教育学部の長谷川裕彦教授とともに、氷河に心惹かれた参加者の皆さんが石転び沢を目指しました。
早朝から始まった観察は、早くもあちこちで立ち止まることに。詳細は差し控えますが、何気なく歩いている登山道沿いの風景は、氷河や大量の雪、雪崩など、飯豊連峰の置かれている環境から生み出されたものの蓄積。いつもなら素通りしていたような場所に、いくつもの軌跡が隠れていました。石転び沢まで入らずとも、見どころ満載でした。
飯豊氷河ツアー
普段は目にとまらないような小さな崖も主役に
飯豊氷河ツアー
土の層にもいろいろにじみ出ている
飯豊氷河ツアー
山から運ばれた石の一つ一つにも歴史が
飯豊氷河ツアー
木漏れ日の中をゆく
天候悪化予報のため、観察は残念ながら石転び沢の手前までとなりました。
ゴール地点は断面がむき出しになった崖。ただの崖に見えましたが、実は氷河が作り出した堆積物、モレーンが地層に隠れていました。ダイナミックな飯豊連峰の山の鼓動が伝わってくる場所でした。
飯豊氷河ツアー
石転び沢と梶川の出合
飯豊氷河ツアー
ここに氷河の軌跡が残る
石転び沢までの行程は、整備された登山道ではありません。温身平の林道終点から、沢沿いの急斜面につけられた細い道のトラバースや、所々藪漕ぎもあります。そのため参加者は中級以上の登山経験者と限定されました。
 
登山のサポートは、飯豊連峰をくまなく歩き、山小屋や登山道の維持管理をはじめ、遭難救助にも携わっているNPO法人飯豊朝日を愛する会と小国山岳会の両団体が担当。何より心強いとともに、途中で出会った植物やキノコ、飯豊連峰についての解説もありました。普段から飯豊連峰の雄大な自然を目にして様々な事象を体感してきた方々だからこそ、多くの方を惹き付ける自然資源に気づき、ツアーの企画に繋がったのではと感じました。
飯豊氷河ツアー
林道終点から登山道へ
飯豊氷河ツアー
沢沿いをトラバース
飯豊氷河ツアー
1日目の散策で目を引いた大型の蛾・シンジュサン
飯豊氷河ツアー
登山中に教えていただいたチチタケ
飯豊連峰に限らず、どの山においても、今ある姿というのは遙か昔から作り上げられてきた唯一無二の景観。そして、我々は気の遠くなるような長い年月をかけて変化している自然の一時代を目の当たりにしているに過ぎません。アンテナが立つと今まで見えていなかったものがどんどん目に飛び込んできます。「登る」だけではない山の世界の扉を開くきっかけになるツアーでした。
 
 
石転び沢までの道は、シダ類を始め植物がのびのび育ち、ジャングルのような雰囲気。岩稜と草原の稜線とは違った飯豊連峰の姿も、私には強く印象に残りました。
飯豊氷河ツアー
ワイルドな飯豊山懐の森
飯豊氷河ツアー
急峻な沢沿いの崖に咲くソバナ