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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

月にまつわる坂のお話 その壱

2023年09月23日
羽黒 守屋明子
9月とは思えない程の厳しい残暑が続きましたが、朝晩には涼風と虫の声、待ちに待った秋の到来です。
さて秋になると月が恋しくなりませんか?月といえば羽黒自然保護官事務所の管轄である出羽三山の月山。月山には「月光坂」という風流な名前の坂があります。
 
「月光坂」の「月光」。実は「げっこう」ではなく、「がっこう」と読みます。「月光」とは地元の言葉で「急な坂」という意味だそうで、月光坂は「水月光」「岩月光」「金月光」という連続する急坂から成っています。
 
月光坂は、湯殿山神社から月山へ向かう登山道に入るとすぐに始まります。江戸時代から盛んだった出羽三山詣でにおいては、ゴールとなる湯殿山へのクライマックスとなる難所でもありました。いにしえから多くの行者さんが行き交った路で、現在では湯殿山神社から月山山頂への登山道の一部になっています。月山の登山道の中では比較的厳しいルートといわれていますが、この月光坂を好んで訪れる方もいらっしゃいます。樹林帯の中を通っているので、月山中腹の豊かな植生を知ることもできます。
 
それでは3つの月光を紹介しましょう。
湯殿山神社から入山して最初に現れるのが「水月光」。水の名の通り、沢の中を通る登山道です。清らかな流れを片目に歩くことができますが、苔むした岩など滑りやすい足場も多いので、安定した場所を選んで足を置いていきましょう。
月光坂
湯殿山神社から登山道が始まります
水月光
8月末の巡視では水月光といっても猛暑で水は涸れ気味でした
水月光
少し歩いて振り返るとすでに高度感が
水月光
水月光の上部。岩月光に続いていきます
足元の沢水がなくなってきたら「岩月光」が始まります。引き続き石の道を慎重に歩いていきます。
最後の関門は「金月光」。金、とは鉄梯子のこと。長短合わせて何本もの梯子が続きます。
月光坂の急登を終えると、急に周囲の眺望が開けて、装束場という分岐に出ます。ここまで湯殿山神社本宮から約60分の所要時間です。
岩月光
岩月光。緑のトンネルを歩いて行きます
金月光
梯子が架けられた金月光
展望
見晴らしの良いところに出たら装束場はもうすぐ
装束場
装束場。志津方面と月山方面との分岐。奥は湯殿山
装束場
装束場から月山への登山道
装束場
装束場付近は秋が深まると紅葉で彩られます(2022年10月撮影)
月光坂の通過には、水月光・岩月光での滑りやすい岩歩き、金月光での梯子、と足運びの集中力を要するため、登り・下りともに所要時間以上に体力を消耗します。特に月山からの縦走で下ってこられる場合には、月光坂を下りる分の余力を残すようにしてください。月光坂から湯殿山神社までの登山道も斜面の中腹につけられた沢沿いの細い道ですので、最後まで気を抜かないことが重要です。

無事に到着した暁には…他言無用の掟がある湯殿山。俳聖松尾芭蕉翁が「語られぬ 湯殿にぬらす 袂かな」と詠んだように、自分だけの体験と感動が待っていることでしょう。
 
晩夏の月光坂・湯殿山神社近辺で出会った自然
オタカラコウ
オタカラコウとミヤマカラスアゲハかな
トリカブト
可憐なトリカブト
ホオズキ
小さな沢沿いのオオバミゾホオズキ
イワオトギリ
かつて施薬小屋があった装束場のイワオトギリ
ダイモンジソウ
白い花火のようなダイモンジソウ