アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]
オオヒシクイを観察してみよう
2022年02月07日こんにちは、仙台自然保護官事務所の鎌田です。
1月下旬から2月になると国指定伊豆沼鳥獣保護区では、越冬しているマガンが日中、沼の周辺で見る数が減少しますが、まだ北帰行ではありあません。北帰行のための準備でねぐらの沼より遠くの田んぼにでかけて食事をしているからです。越冬の前半で沼周辺のエサを食べつくしてしまっているからです。ねぐらである沼にほとんどが帰ってきますが、中にはもっと食べたくて遠出しているマガンはそのまま、田んぼなどで夜を明かす群れも出てきます。
10万羽の中から別のガン類を探すのは難しいけれど、マガンが少なくなった時こそ、伊豆沼・内沼や周辺の田んぼで、ちょっと大きなガンの仲間で、マガンと同じく1971年に国の天然記念物に指定されているオオヒシクイが見やすくなるのでじっくり、観察してみましょう。
オオヒシクイの特徴:
日本に定期的に渡ってくるガン類(オオヒシクイ、亜種ヒシクイ、マガン、シジュウカラガン等)の中で最も大きい。(かぶくり図鑑を参照)
伊豆沼・内沼では、越冬する大型の水鳥の中でオオハクチョウに次いで2番目の大きさ、翼を広げると約2mになり、体重は5㎏位、マガンは2.5㎏位、オオハクチョウでは10kg位になります。
身体の色は、全体が暗褐色、胸はマガンのような斑模様は無く、お尻にかけて白い。
鳴声は太く低い声でガァガァー、ガァガァガァー、低音の声が響き、頭頂部からクチバシの先まではほぼ一直線、クチバシは黒く、先端付近は黄色、ラジオペンチ型、マコモなどの抽水植物の根茎部を掘り起こして食べるのに適している。
がっしりとした足は、鮮やかなオレンジ色、のっしのっしと歩く。泥の中や水中では見えない足も、氷上ではよく観察できる。
生息場所は、泥っぽい沼の岸辺や川岸など湿ったところが大好きで、一日の大半を沼で過ごしているように見える。寝ているか食べているか、たまに田んぼに出かけてもちょっと湿ったところそこでも寝ているか食べているかの生活、マガンほど神経質ではないので、雁首揃えて警戒はするが直ぐには飛び立たず、ある程度観察できます。
見分ける時には、胸からお尻にかけての白さやクチバシや声を頼りに探してみよう。
生息数は、日本に渡ってくる数は約1万羽(オオヒシクイ、亜種ヒシクイ合わせて)、おおよそですが、伊豆沼・内沼では、大型の水鳥の中では1番のマガンが5万から10万羽、2番のオオハクチョウ4千羽、3番がオオヒシクイ1000羽前後。今年の2月上旬の渡り鳥飛来状況調査では1185羽を確認されました。
内沼の西側で撮影した時の様子、2羽がマコモの根茎部に乗っているのですが、周りのオオヒシクイは、沼の中に頭を突っ込んでパクッ、何かを食事中です。
さて、ここで問題です。マコモ以外の何を食べているでしょう。
ヒント:1.クチバシがラジオペンチみたい。 2.鳥の名前にあり。
答えは、ヒシの実を食べているのでした。ヒシの実を喰うのでヒシクイの名前になりました。ヒシの実が大好きのようです。
夏の内沼の様子です。向こう岸に栗原市サンクチュアリセンターつきだて館が見える沼の西側、水面を覆いつくすヒシが広がっているこの場所で、冬、オオヒシクイが食事をしていたところです。
1月の日記で糞便調査を紹介した東側の砂浜の様子を確認してみましょう。
砂浜には、オナガガモが観光客からエサをもらうため集まっている。沼の中央に浮かんでいる黒っぽい水鳥がオオヒシクイです。
砂浜を側面から撮影してみました。砂というより黒い何かがいっぱい、水際から2m以上の幅です。
大きなヒシの実が沢山、打ち上げられているのです。すごい数です。ではなぜ、この沢山のヒシの実にオオヒシクイは集まらないのでしょう。それは、打ちあがった実はシイナ(殻だけで中身が無いもの)で、軽いから風で東側の砂浜に集まっているのです。
オオヒシクイたちは、沼の底に沈んでいる、しっかり中身の詰まった実を食べていたのです。内沼は、ねぐらと食事に困らないところのようです。
マガンはお米や大豆などの田んぼや畑の残り物(人間に依存したもの)を食べ、オオヒシクイは沼や湿地の植物(自然由来のもの)を主に食べて越冬している違いが見えてくる。
北帰行をいつにするか思案中の水鳥たちを観察する際、オオヒシクイに注目して観察してみてはいかがですか。
※ちょっと気になったので、皆様にお願いです。1月の糞便調査で水鳥の糞を探していると、ヒシの実の写真に写っている食パンの袋のクリップが沢山落ちていました。折角、水鳥に優しい気持ちでエサを与えるのでしたら、間違って食べたりしないように、ゴミは持ち帰りをお願いいたします。