アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]
秋の首崎(こうべざき)
2021年11月25日みなさんこんにちは。大船渡自然保護官事務所の坂本です。
先日、大船渡市首崎へ公園巡視に行ってきました。
首崎は植生調査のため夏の巡視地としているのですが、スッキリとした秋空の絶景を拝みたいと秋にも足を踏み入れてみることにしたのです。首崎はメジャーな観光スポットではありませんが、「リアスの半島突端」「最果て感」がどっぷり感じられる、知る人ぞ知る秘境です。どんな秋が待っているでしょうか。
この日の空は雲がちぎれちぎれあるものの、風はなく、時折顔を出す太陽があたたかく歩いていると汗ばむほどでした。海上の空気がとてもきれいだったようで、直線距離で90㎞以上離れている宮城県石巻市の金華山まで目で確認することができました(カメラには写っていませんでした、残念)。
首崎の先端へ向かうために半島をぐるっと周回している林道を進みます。色づく広葉樹林や手入れの行き届いた針葉樹林を交互に楽しみながら平坦でとても歩きやすい道です。昨今の大雨や台風などの影響で崩れが発生している箇所もあり、林道とは言え、車ではなく歩きで向かうことをおすすめします。
大きな朴の落ち葉エリアは雪が降ったのかと見間違えるほど真っ白、自然のレフ板のようです。わざと葉の上を選びガサガサ音を立てながら歩く落ち葉ウォークを楽しみました。
苔むすエリアでは生命の発見もありました。コツボゴケの覆うしっとりとした地面に根を伸ばしたドングリです。軽くつまんでみましたがしっかりと根付いていたようでした。こんな小さな木の実も頑張って生きている、自分も頑張らなくちゃと元気をもらえますね。
先端へ進む道で見つけた不思議な色合いの樹。地衣類のピンクや黄色の斑模様がモザイクアートのようでした。自然に偶然に描かれた純粋なネイチャーアートに惚れ惚れし立ち止まってしまいます。
半島の先端付近には、寒冷地でも耐えられるカシワが群生をなしています。新しい葉がでるまで古い葉は枝で落ちずに待つ「代が途切れない」として縁起物と言われていますが、ここの厳しい環境下ではさすがに吹き飛ばされるのか、落ちているカシワの葉もありました。楽しみにしていたドングリの実も分厚い落ち葉の層や馬の背斜面のお陰か見つけることができませんでした。
カシワと言えば柏餅。東北人の私は大きなカシワの葉に包まれたお餅を食べていましたが、四国出身の現保護官に聞いてみたところ、柏餅は丸い葉っぱに包まれていたと言うのです。植物図鑑に"サルトリイバラの葉は柏餅の葉"と書かれていたのを見たことがありましたが、想像ができず全く信じていませんでした。まさか西日本では柏餅の葉っぱがサルトリイバラなんて。。。本当なんですね。「じゃぁじゃぁ鶏肉の"かしわ"は?」と東西カシワネタで会話が尽きません。
『柏黄葉/かしわもみじ』は晩秋の季語。まさに今かなという色づきでした。ちなみに『柏落葉/かしわおちば』は初夏の季語です。"落ち葉"と聞くとどうしても秋・冬のイメージですがカシワの生態が分かると理解できますね。季節の移り変わりを自然界から感じ取ることは昔から楽しまれてきたことで、今でもできること。山中巡視の辛い登りでは気を紛らわすのに植物や虫たちに助けてもらっています。
いよいよ先端部、首埼灯台が目の前です。尾根沿いの道から少し下りたこの場所で、必ず切り取ってしまうアングルです。
首埼灯台の建つ先端広場は水面からおよそ100mの高さに位置します。視界が良ければ北は山田町船越半島、南は大船渡市綾里崎まで地図通りのリアスの海岸線をはっきりと見ることができます。
灯台下の植生観察、最盛期は終わっていますが砂地で強風、乾燥しているこの厳しい地で頑張る植物たちです。
【左】赤く染まったキリンソウ
【中】ぎっしりと実を付けたハマハイビャクシン
【右】アオノイワレンゲの残った穂と小さく揺れるハマエノコログサ
目的の首崎巡視を終え、帰り道近くの『鬼間ヶ崎/きまがさき』に立ち寄りました。津波をかぶったはずのこの小島の上には青々としたマツが生い茂っています。とても強い生命力を感じます。
首崎周辺の半島先端は「脚崎/すねさき」「死骨崎/しこつざき」など不気味なものが連なります。大昔、成敗した鬼を切り刻み海へ葬ったところ、それぞれの岬に鬼の体の一部が流れ着き、それを名前に残したという言い伝えがあります。牙(キバ)=鬼間(キマ)が流れ着いたのがここ鬼間ヶ崎とのこと。恐ろしい鬼伝説のある地ですが、景色はえも言われぬ美しさです。景色と併せて伝説や文化などその土地ならではのことに触れられると、記憶への残り方は変わります。人の営みとの関わりが深く、変わった地名の多いここ三陸復興国立公園ではそういった目線で楽しんでいただくのもおもしろそうです。