東北地域のアイコン

東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

春の音

2021年03月29日
十和田八幡平国立公園 伊藤 あけみ

3月24日早朝、今季初の山鳩の声が聞こえました。

それに負けないように、キツツキの仲間がドラミングをして、

朝の静寂に心地良い響きを与えてくれます。

毎年やってくるアオゲラと思っていたら、アカゲラでした。

桐の大木の枯れ枝をつつき、自己アピールしているようです。

しばらくして場所を変えると、違う音になります。

餌を食べる時と、縄張りを主張する時で、つつき方が違い、音も違うようです。

森の音楽家ですね。

〈お腹がふくらんでいるように見えます〉

先日の地震で、皆様の地域に被害はありませんでしたでしょうか。

あの緊急地震速報の音には、毎回驚かされます。

津波という単語を聞くと、いっきに10年前の記憶が蘇ります。

そして、防災用品や非常食、車のガソリンのチェックなど、

たくさんの忘れていたことを思い出させてくれます。

先日、自宅周辺の日だまりの中にフキノトウを見つけました。

さっそく蕗味噌と天ぷらです。

〈4年間お世話になった十和田八幡平国立公園管理事務所にもフキノトウの目覚め〉

フキノトウは春の山菜ですが、雪の降り始めの12月に、

雪をかき分けて探したものを食べるのもまた良いものです。

まだまだ固い蕾ですが、しっかり春の香りがしています。

春の山菜の苦みは、冬の間に身体に溜まった毒素を排出するとも言われています。

ちょっと気が早いですが、様々な春の山の幸を味わうのが楽しみで、ワクワクしてしまいます。

手始めに、採取する適期が雪解け前と紅葉時期の落葉前後、というクロモジを採取して、

お茶にした残りを事務所の窓辺に飾っていました。(国立公園外の自宅周辺で採取しました)

〈まだまだ目覚めは先ですね〉

2週間ほど過ぎ、やっと新芽が開いてきました。

〈一年目の枝の葉芽:ふわふわです〉

〈花芽のついた葉芽は透明できらきら〉

とある薬用酒の会社が、原材料であるクロモジを買い付けに来るのは、

採取適期ももちろんですが、薬効の高い親指の太さ以上の枝ということです。

昨年は枝と新芽と花の三種のお茶を試し、今年は新芽が出る前のお茶を試しました。

このあと花の時期まで作業が続きます。

遠くに出かけなくても、自宅周辺に山の恵みがたくさんあるのは、とても有り難いことです。

また先日は、蔦野鳥の森に巡視に行ってきました。

〈早春の静寂も良きかな〉

〈まばゆいばかりの赤倉岳の稜線〉

紅葉の時期の朝焼けの風景が有名な蔦沼ですが、積雪期もまた趣があります。

遊歩道は閉鎖されていますが、自己責任のもとスノーシューで散策する方が多くいらっしゃるようで、

たくさんの踏み跡がありました。

この日は平日でもあり、誰も居ませんでした。

午後の日差しの中、ゆったりと時が流れていきます。

日が傾いてくると、森の向こうから光りが差し込み、

幻想的な光景になります。

〈静寂の菅沼〉

〈根開きの始まったブナ林〉

森を一人占め(二人でしたが)できる至福の時でした。

長く厳しい冬が終わりを告げるように、ときおり優しいなごり雪が舞い降りてきます。

まだまだ雪を楽しみたい私は、少し寂しい気持ちになります。

春は別れの季節で切ない時期でもあり、新しい環境で不安な気持ちにもなりますが、

心豊かになれることを探しながら、前を向いて歩いて参りましょう。