東北地域のアイコン

東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

白地山トレッキングを開催しました

2012年11月02日
十和田
十和田自然保護官事務所主催の秋の自然観察会として、10月20日に十和田湖の外輪山である白地山(しろじやま)で自然観察会を兼ねたトレッキングを開催しました。



白地山(秋田県小坂町)は十和田湖外輪山の西側に位置する標高1034mの山です。なだらかな山頂部分には湿原が広がり、春から夏にかけてはキンコウカなど高山植物の花も見られます。
山頂への登山ルートは何本かありますが、今回の観察会では県道2号線(樹海ライン)沿いの鉛山峠登山口(標高830m)から十和田湖外輪山を縦走して白地山を往復する約15㎞のコースを歩きました。
距離はありますが、歩道はしっかり整備されておりアップダウンも比較的少なく、のんびり歩く観察会にはぴったりのコースです。

例年よりも紅葉は遅れていましたが、標高の高い所では色づき始めていて、緑から黄色へと葉の色を変えるブナ林に、ナナカマドやウルシが赤い色を添えていました。




コース中には十和田湖が展望できる場所が数カ所設けられており、展望台に立って十和田湖を眺めると、この湖の不思議な形が形成された過程を想像することができます。


十和田湖は二重カルデラ湖というカルデラ湖の中にさらにもう一つのカルデラ湖ができたとても珍しい形の湖です。ちなみにカルデラとはスペイン語で「鍋」や「釜」を意味し、火山活動による爆発や陥没によって凹んだ地形のことです。この窪地に水が溜まったものをカルデラ湖と呼びます。十和田湖は面積約60k㎡の大きなカルデラ湖ですが、南岸から湖の中心に伸びるように中山半島と御倉半島という二本の半島が突き出ています。この半島に囲まれた部分(中海)が内側のカルデラにあたり、外側のカルデラ(現在の外輪山)が出来上がった後の噴火活動によって形成されました。


登山道付近の自然に目を向けてみると、多くのキノコや植物たちを見ることができます。

キツブナラタケ(左)とナメコ(右)

特にキノコの種類はとても豊富でした。上の写真はキツブナラタケ(通称サモダシ)とナメコですが、面白いことに同じ倒木に発生していました。通常はナメコの方が遅い時期に生えてくるのですが、今年は暖かい日が続いていたためにサモダシの発生が遅れ、急に冷え込んだタイミングで同時に生えてきたものと思われます。

一般的には食べられるキノコばかりに興味が注がれますが、自然界においてはどんなキノコも有機物の分解者という大切な役割を担っているので、人が利用しないキノコ達も観察会では立派な主役になります。この日はツキヨタケ、クチベニタケ、チシオタケ、ツリガネタケ、ウスキブナノミタケなどを見ることができ、見分け方や生態的な特徴について観察しました。
普段あまり意識することの無い「食べられないキノコ」のことも知り始めると、観察対象が一気に広がり山歩きの楽しみも増えます。


キノコに夢中になっているとつい足下ばかりに気をとられてしまいますが、登山道沿いではイチイやヤシャビシャクといった植物も見ることができました。イチイはオンコとも呼ばれ彫刻材によく用いられる針葉樹で、十和田湖周辺では標高1000m付近に自生しています。庭木などでも良く見かけますが、直径50~60㎝に成長した古木の姿はとても迫力がありました。

ヤシャビシャクはスグリの仲間で、ブナの大木のウロ(樹洞)などに着生するため、生育するには巨木の存在する自然豊かな森が必要です。樹上に生えているので気付かれないことが多く、今回の観察会で初めて見たという方も多かったようです。注意深く探してみると、登山道沿いだけでも割とたくさん見つけることができました。

ヤシャビシャク


今回の観察会では、自然の美しさをただ眺めるだけでなく、十和田湖周辺の豊かな自然の成り立ちを地形的な特徴や生態系の仕組みを理解しながら学ぶことができました。
見るだけではなかなか知ることの出来ない自然の摂理を、ボランティアスタッフなどの解説を聞きながら分かりやすく学べるのが自然観察会の魅力の一つです。
「知っているようで実は知らなかったこと」に焦点をあて、地域の自然に対する興味が深まるような観察会をこれからも企画していきたいと思います。