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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

赤水渓谷の急激な増水

2011年08月23日
秋田
 雨が続いています。それもあってこのところ気温が下がって過ごしやすい日が続いています。あの猛暑はなんだったのか?ってくらいです。そんな中でも『今朝は寒いくらいだったな・・』なんていう挨拶には違和感を感じました。そんなに極端な事はないだろうと思うのですが・・・。



 21日の日曜日、森吉山野生鳥獣センター運営協議会主催の自然観察会を実施しました。コースは特に人気の高い赤水渓谷でした。その報告は後日するとしまして、今日はその日体験した急な増水について書こうと思います。

 観察会を実施する前には必ず事前の下見を行います。業務の都合やそのコースに応じて数日前に行ったり直前に行ったりしますが、今回は渓谷での観察会と言うことで一番問題となるのが当日の水量と水の濁り具合。それによっては晴れていても観察会を中止するのが適当な場合もあります。先週は雨が続いていて、特に秋田県北部では川が氾濫して田んぼ等が冠水したり、各所で土砂崩れが発生したりといった被害が報告されていました。そんな中で観察会の実施は可能なのか?を判断するために金曜日に下見を行いました。


 その時の赤水渓谷入渓地点の状況がこちら。同行した保護官曰く『俺が見た中で一番水量が多い』とのことでした。
 普段の赤水渓谷は甌穴や深みに注意して、浅い場所を選んでいけば長靴での歩行も可能(決して長靴を推奨しているのではありません!!)です。参加者への案内にも装備携行品の欄に『・・長靴など・・』と書かれているので(私はこの記述には賛成しかねますが・・)多くの方が長靴で参加することが予想されます。そんな中で実施が可能かどうか?判断に困るところでした。

 私は沢歩きスタイルで下見をしたので特に支障を感じずに行動することが出来ましたが保護官は長靴スタイルのため普段以上に慎重な行動を強いられ困惑しているようでした。そんなこんなで一応目的地としている場所まで行って下見を終了。結果、我々が下した判断は・・・『土曜日雨が降らずに水量が減れば実施、少しでも雨が降ったり水量が減らない場合は中止』というものでした。

 土曜日:雨は降らず、現地に確認した情報では水量も落ち着いたとのことで予定通り観察会を実施することとなりました。私にはこの時点で多少の不安があったことを告白します。『あの水量がそんなに簡単に減るだろうか・・?』そんな思いが過ぎりました。

 日曜日:朝の時点では曇り。しかし森吉へ向かう途中で一瞬小雨がフロントガラスを濡らします、この時点で嫌な予感が過ぎりました。その後雨は降らず、森吉山も山頂までクッキリと見えていて低い雲も無く、私の予感は外れるのかな?と思い直しました。
 
 観察会を実施し、コースを歩くと森吉山野生鳥獣センター近くの徒渉箇所も水量が平常並で濁りもなくいたって落ち着いた様子です。現地からの報告通り昨日からこうした落ち着いた状況であれば安心かな?と思い、赤水渓谷へと向かいました。
  

 これは赤水渓谷への入渓地点で昨年8月に実施した時と、先日21日の状況を比較したものです。画角が違っていて解りにくいですが全く同じ場所を撮影したもので、上が今年の写真で、下が水量が平常の範囲内であった昨年の写真です。
 写真では解りにくいのですが、この時点で私は『大して変わってない』という印象を持っていました。金曜日の下見時点の平常よりもかなり水量が多いという状況に変化を感じられなかったのです。

 この時点で『水量が多い。他の沢とは状況が違う。』と講師、スタッフ陣に話をしましたが、雨も降っていないし濁りもないことから話し合って続行することとなりました。
 今になって思えば・・・相当に慎重を期すならばこの時点で中止もあり得たかも知れません。しかし通常の沢歩きであれば問題ともならないような水量だと思えましたし、濁りもない上、この先を歩くことを楽しみに申し込まれた方ばかりだと知っているので、この先、予定していた場所までは行かない。もし危険があれば即撤退。決して無理はしない。等を徹底した上で上流へと歩き始めました。
 
 暫くすると小雨がパラつきました。この時、無線で連絡を試みましたがこの時は誰とも無線が通じず・・・。そうこうしているうちに雨が止みました。この雨で急な増水はないと判断できる程度の雨でしたが既に沢に入っている以上そうした軽率な判断は危険です。最後尾を歩いていた私は隊列を乱して他のスタッフの居る場所まで急いで行きました。そこでも話し合いましたが、『即中止するほどではないだろう』という事で更に続行することになりました。

 その間の休憩を終えて暫くすると今度はやや激しい雨が降り出しました。この時点ではもう迷う必要はありません!『即中止、即撤退』です。歩き始めた他の講師スタッフを止めたり、全員の意思統一のために多少の時間を要しましたが、直ぐに引き返すことを決め、今来たところを引き返しますが、雨が水面を叩き足下の様子が見えにくく、甌穴や深みをしっかりと見ることが出来ませんから当然歩みは遅くなります。しかし急いで怪我をしたり沈したのでは本末転倒ですから慎重に慎重に歩いていきました。


 この後、私たちは『自然の驚異』を身をもって体験することとなります。沢床の様子が見えずに速度が落ちているうちにどんどん水が濁ってきました。これで益々歩きにくくなりました。慎重にストックで足場を確認したり、先行者が足場を示したりしながら進んでいくうちに今度はみるみる増水してきたのが解りました。雨が水面を叩き、水は濁り、水かさは一気に増す!!参加者の中に『恐怖』を感じた方がいたのも無理はありません。
 

 手こずりながらも全員無事で入渓地点に戻ってきた時には既に沢を歩くことが出来ないほどに水位が上昇し、いつものように歩いて戻ることが出来ない状況でした。

 しかしここを通過しないと戻れないので、沢の中の段差を下るのを避けて高巻きし、信頼できる太さの支点が確保できる場所にザイルを渡しキッチリ確保して慎重に参加者を誘導し、どうにか全員通過しました。その時最後に撮影したのが一番下の写真です。増水し濁っているのがお分かり頂けるかと思います。入渓地点に入った時から脱出するまで1時間半、その間にこうした急激な変化が起こりました。

 後から知ったことですが・・・この時、北秋鹿角地域に大雨洪水警報が発令されていました。急激な水位の上昇と水の濁りはこの大雨がもたらしたものでした。赤水渓谷の上流は玉川温泉付近に達しますのでその周辺に降った雨を集めてきたのでしょう。一方、帰り道に確認したことですが、森吉山外輪に源流を持つ沢では濁り水も入っておらず水位の上昇も見られませんでした。『なんだこの違い?』とビックリしたほどです。
 
 何はともあれ・・全員無事に森吉山野生鳥獣センターに帰着することが出来ました。このことが大前提で、最低限やるべき事ですからそれを果たすことが出来て我々としてもホッとしています。しかしこの経験から学ぶことはたくさんあります。私自身も反省すべき点は反省し今後に活かしていきたいと思っています。


 最後に・・・毎年、水の事故が報道されます。その度に検証がなされていて、そこから反省もし、学ぶこともあるはずですが事故がなくなりません。しかし中には未然に防ぐことが出来た事故もあるように感じます。反省と教訓をいかして安全な活動を心がけましょう!!