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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

大沼のおとうさん逝く

2008年10月23日
鹿角
 今年の大沼湖畔は昨年と比較にならない位、鮮やかな黄葉に染まりました。

 多くの観光客で賑わった今月9日「大沼のおとうさん」と呼ばれて歴代環境省のレンジャーを始めとして八幡平に関わった多くの人々に親しまれてきた畠山謙次郎さんが亡くなられました(享年86歳)。

今年の春先に八幡平ビジターセンターを訪れてくれた畠山謙次郎さん。懐かしむように昔の話をしてくれた。

 謙次郎さんは、まだ訪れる人も稀だった昭和28年に大沼湖畔に小さな旅宿を開いて以来、八幡平地区の国立公園編入に奔走し昭和31年の十和田八幡平国立公園誕生以降は、登山道整備やビジターセンター建設などに心血を注いできました。今年の4月、まだ半分雪で埋まったビジターセンターにぶらっと一人訪れ、たまたま開館準備をしていた私に訥々と話をしてくれました。「昔は、たまに訪れる登山目的の学生か農家の湯治客しかいなかったこと」「交通手段は歩くか馬車、電気も電話も何も無く冬は全く孤立状態だったこと」「原生林の中で100mの道をつくるのに1年かかったこと」などなど。静かだった昔の八幡平のことを懐かしそうに振り返ります。
 
 付近に生息するクマも知り合い?が多く、「毎年、澄川から大沼へくる奴で必ず宿の方を向いて立ち上がって合図するのがいたけど最近姿を見せない。撃たれちゃったんじゃないか」と本気で心配したり、「この前出会った親子連れが私にフウフウとちゃんと挨拶して行った」と嬉しそうに話したり。

 しかし最近の利用者については「せわしくてあまり自然に興味をもたなくなったような気がする」「ゆっくり会話を楽しんだり挨拶をかわしたりということも減った」と寂しいそうに話していたことが忘れられません。各地の国立公園誕生後、半世紀を超える地区が多くなるなか、その生きた歴史を知る方の話は貴重な財産です。いつでも聞けると思って、しっかりと謙次郎さんの話を記録していなかった事がかえすがえす残念でなりません。