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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

【実施報告】冬の十和田湖自然観察会

2007年12月04日
十和田
12月2日(日)に、十和田自然保護官事務所で行う今年最後の観察会、『冬の十和田湖自然観察会』が行われました。
当日は、下見の時にあった雪はすっかり消えてしまい、雪上の動物の足跡観察はできませんでしたが、代わりに、地面に落ちていたブナやイヌエンジュ、ヤマブドウ、ツルウメモドキ、サルナシなどの木の実や、ハリギリの落葉に刻まれたハモグリバチ(もしくはハモグリバエ)の幼虫が葉の中で生活していた跡などが観察できました。

ツルウメモドキ(右上は拡大図)


ハモグリバエまたはハモグリバチの痕跡。別名「字書き虫」。


そして皆さんが興味津々だったのは、ツキノワグマの痕跡でした。木製の看板がクマによってバキッと割られ、そこにクマの毛が数本と爪や牙の跡が残されていました。



クマの毛

でもどうして看板がかじられているのでしょう?
クマはガソリンなど油のにおいにも寄ってくる性質があるので、看板の防腐剤やペンキのにおいに寄ってくるとか、マーキングのためだとか、いろんなお話を聞いたりしますが、「要するにここはクマのテリトリーの中だということです。」という言葉に、納得。人工物だからこそマーキングをして、人間に対して「来るな」と言っているのかも知れません…

この観察会では、前回の下見の日記でも書きましたが、講師に自然公園指導員の山下さんを迎え、『森と動物と私たち』と題して、自然と人との関わりについても考えてみようという趣旨で行いました。
“たとえば、木材生産のためにブナの林をスギの造林地に変えてしまったら、生態系にはどんな影響がでてくるだろうか…?”
戦後、木材が多量に必要となり、国を挙げてあちこちにスギを植えました。豊かな自然が残されている国立公園の中や周りにも、スギの人工林はあります。
ブナ(落葉広葉樹)の林がスギ(常緑針葉樹)の林に変わると、土が変わり、沢や湖のプランクトンが変わり、それを食べる水生昆虫、魚、そしてそれを食べる鳥、動物…と、つぎつぎに波紋が広がり、生態系の中で「何か」が変わっていきます。ブナ、ドングリなど、動物たちの食料が減ることも大きな影響です。
生態系の中での生き物同士のつながりは、とても緻密で、すべてがつながっていて、だからこそとてもデリケートなんだということを、私個人としても改めて感じました。そして、私たちは自然とつきあう中でそのことを十分に考えた上で行動を起こさなければならないということも。

当日、天気はまぁまぁ良かったのですが、風が強く寒かったため、「自然と人との関わり」について、その場でじっくりと話をすることができませんでした。しかし、この日に観察したことや、講師の山下さんの言葉の端々にそのメッセージは込められていました。

マルバマンサクの冬芽を観察。

観察会のアンケートでも、印象に残ったことが「自然の大切さ」や「自然共生のあり方」と答えていた方がいて、趣旨が伝わっていたことをうれしく思いました。


観察会の途中で見えた湖の北側にある御鼻部山(おはなべやま)。風が強く十和田湖は海のようでした。