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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

ブナアオシャチホコ

2007年08月23日
十和田
今年の夏は、八甲田山の一部でブナアオシャチホコというガの幼虫が大量発生し、ブナの葉が食べられて林がまるで落葉した後のように明るくなっています。初めは北八甲田の青森市側の山腹やロープウェー山麓駅の近くなどで見られましたが、その範囲は少しずつ広がり、現在は谷地温泉のあたりの林もブナの葉が食べられています。


緑の葉が青々と茂る夏なのに、木に葉っぱが無く林内が明るいなんてびっくりしてしまいますが、これは異常というわけではなく、自然に起きていることなのです。
このブナアオシャチホコというガは、8?10年くらいの周期で大量発生します。大量発生は2?3年続きますが(昨年も八甲田の別の地域で見られました)その後自然に終息します。葉を食べられたブナも、翌年の成長にそれほど影響は出ないようです。
なんだか不思議な現象だなぁと思い、調べてみると、どうやら天敵であるクロカタビロオサムシとブナとの関係に秘密があるようです。
ブナアオシャチホコの幼虫が大量発生すると、これを食べるクロカタビロオサムシも増えるそうです。確かに、先日の巡視でブナ林を歩いているとカサコソと歩き回るこの虫を何度も見かけました。
また葉を食べられたブナは、翌年・翌々年にはタンニンという幼虫の成長を阻害する物質を多く含む葉を作るようになるという研究結果もあるようです。
これらはブナ林での食物連鎖のほんの一部ですが、いろんな生き物の関わり合いによってブナアオシャチホコの大量発生→終息というサイクルを作り出しているようです。


ブナアオシャチホコの幼虫
地面におりた幼虫はこれからさなぎになって越冬し、来年の6月ごろ成虫になります。


クロカタビロオサムシ
ちょこまかと歩いてすぐに枯れ葉の下に隠れてしまうのでこんな写真しか撮れませんでした…

谷地温泉付近のブナ林は新緑や紅葉がとてもきれいで、私の好きな場所の一つです。
食害によってこの場所で紅葉が楽しめなくなってしまったのは残念ですが、この林の中でいろんな生き物が生活している様子を思い浮かべながら、自然界の静かでダイナミックな動きに思いを馳せてみる、という違った楽しみ方もいいかも知れません。


一昨年の新緑の頃(6月)緑のトンネル。


食害を受けた後(8/22)