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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

月山の自然環境を未来に引き継ぐために THE GASSAN PROMISES

2025年09月30日
羽黒 守屋明子
令和7年9月、月山の山小屋・月山頂上小屋、月山佛生池小屋、環境省羽黒自然保護官事務所は、月山の自然環境を未来に引き継ぐための心得として『THE GASSAN PROMISES』を作成し、登山者等への呼びかけを行いました。
月山
THE GASSAN PROMISES
月山は東北を代表する山の一つで、標高2000mに近い高山でありながら、登山に限らず信仰やスキー等、多彩な方が訪れる山です。主要な登山道は登拝道でもあり、幅広い利用者を想定した作りになっています。森林限界を超える場所まで車道やリフトが通じているため、登山経験を問わず、登りやすい山とされています。特に高山植物のお花畑が登山口から広がっている等、貴重な自然が手近に見られることで人気の山です。
 
その一方で、本来の月山の自然環境は、標高が高いため寒冷で土壌の栄養分が乏しく、例えば人が植物を少し踏んだだけでも生えてこられなくなるほど、脆弱です。訪れる人が、アプローチの気軽さから高山帯であることを忘れて、都市公園や里山の森林などと同じような行動(例えば芝生の上でシートを広げて座るイメージで高山植物の上に座る等)をしてしまうと、今の月山を未来に残すことができないかもしれません。
 
また多くの方が多種多様な目的で来るため、それぞれが自分本位の振る舞いを貫くと、トラブルの元になりかねません。同じ場所(月山)を共有する仲間として、ちょっとした気遣いが必要になります。
 
そこで今あらためて、月山の自然環境を未来に引き継ぐために必要な行動を、私たちが率先して心がけ、広めていくために、THE GASSAN PROMISESとしてまとめました。

THE GASSAN PROMISES(抜粋)

命を持ち帰らない
植物の採取や動物へのエサやりは決して行わず、遠くからよく観察し、記憶と写真に留めます
 
見たものはありのままに
私が見たままの自然が保たれるよう、道を外して無防備な植生や土壌に私の足跡を残すことは決してしません
 
自然でないものを残さない
本来はないはずのものが自然の中に残らないよう、私が持ち込んだものはすべて持って帰ります
 
自然の音と静寂に耳を澄ませて
自然からのメッセージや都会にはない静寂を共有するため、むやみに大声や騒音を出すことは控えます
 
近くの人に配慮を 
同じ空間を共有する人を尊重し、すれ違いや追い越しの際には声を掛け合い、道を譲り合い、調和を保つことに努めます
月山頂上小屋と月山佛生池小屋では、THE GASSAN PROMISESを広めるため、賛同いただいた方に、磐梯朝日国立公園GREAT SIX MOUNTAINS GASSANポスターのデザインで裏面にTHE GASSAN PROMISESを掲載したステッカーを配布しました。
令和7年9月下旬の山小屋営業終了までの短い期間でしたが、多くの方に賛同いただくことができました。
月山
THE GASSAN PROMISESは山小屋の屋内等に掲示(写真は月山頂上小屋)
月山
THE GASSAN PROMISES×GREAT SIX MOUNTAINS GASSAN ステッカー
月山
月山頂上小屋
月山
月山佛生池小屋
THE GASSAN PROMISESの内容は、皆さんにとっては、すでに至極当然な基本動作かもしれません。
 
一方で、私自身がつい数年前まで、登山は好きでも運動面の達成感が優先し、自然のことまで知識が及ばず、高山帯がとても過酷な環境であるということをまったく知りませんでした。山に行くにも理由は人それぞれで、意外と自然や山自体のことを知らない人も多いのではないでしょうか。
 
自然の中に来たら何にも縛られず自由にしたい、のびのびしたい。もしかしたら、登山で疲れて余裕がない。
けれども自然は本来とても繊細な場所であり、その中だからこそ、秩序や心配りが求められます。
 
一人一人の小さな心遣いが、貴重で脆弱な自然を後世に繋げてゆく原動力になります。何より、心にも余裕ができて、山での時間がより清々しいものになることでしょう。
 
そして月山だけではなく、他の山や自然も、誰かが大切に守っているものかもしれません。自分や誰かが大切にしているものを大切にする心が広がっていけばいいなと思います。
月山
過酷な環境で生きるチングルマ
月山
雪解けを待って開花の時を迎えたヒナザクラ
月山
オコジョも月山の住人
月山
ツキノワグマも月山の住人