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東北地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

16年目を迎えた八幡平の植生回復作業

2009年09月28日
鹿角
 久しぶりに実家に帰った折りに昔の登山ガイド(昭和50年頃)のページを何気なくめくっていて、当時の八幡平の黒谷地湿原の写真を見た途端、目を疑ってしまいました。その写真に写っているのは、草もまばらでガチガチに乾燥したむき出しの裸地のあちこちに座って憩う多くの登山者の姿。現在のデッキや木道が完備された姿から、当時の荒廃した状況を想像することは困難です。それほど八幡平の湿原が復元してきたということなのでしょうか?

 自然公園財団・ボランティアを主体とした湿原の植生回復の試みが本格的に始まったのは平成5年のことです。AR日記に紹介されている飯豊山登山道や
八甲田井戸岳登山道の乾性植生回復と異なり、八幡平では高層湿原での湿性植生回復の取り組みになります。耕起したり、客土してみたり、現地種を播種したり過去、様々な試行錯誤を繰り返してきましたが、現在は保水性の土壌改良材を植物性繊維で包み込んだ植生マットを裸地面に密着させ、周辺から飛散してくる種を待ち受けて自然に植生回復を計る手法を採用しています。重要なポイントが水の制御にあることが次第にわかってきました。

 9月の連休の最中、多くのパークボランティアが参加して源太別れ付近の植生回復を行いました。驚いたのは通り過ぎる利用者の植生回復に対する関心の高さで、あるボランティアは「今までいろいろな活動をしてきたが、今日ほどありがとう・ごくろうさまと言われたことは無い」と感激していました。
植生回復の目的や手法を尋ねる利用者も多く、失われた貴重な自然を回復することへ理解と期待が高まっていることを肌で感じました。しかし、詳しく植生のモニタリングをしてみると、オリジナルの湿性植生に回復しているのでは無く、あくまで初期遷移の植物グループが生育していることもわかってきました。本来の自然が回復するまでには、おそらく何十年というスケールの時の経過が必要なのかもしれません。これからも息の長い植生回復作業が続いていきます。




2年目の植生回復地。フロンティア的な植物の成長が見られる。もともとは火山基盤が露出して完全な裸地だった場所。


裸地表面の小石を取り除いてていねいに植生マットを裸地に固定する。根気のいる作業だ。


今年の参加メンバー。八幡平の植生回復は景観の保全もあるが、利用者に貴重な自然を回復する大切さを知ってもらう機会を提供する意味合いも大きい。