東北地域のアイコン

東北地方環境事務所

~環境省グリーン復興プロジェクト~平成25年度東北地方太平洋沿岸地域自然環境調査の結果について

2014年05月15日

~環境省グリーン復興プロジェクト~平成25年度東北地方太平洋沿岸地域自然環境調査の結果について

東北地方環境事務所
環境省自然環境局生物多様性センター
電話:0555-72-6033(直通)
センター長 :中山 隆治
専門調査官 :阿部 愼太郎
生態系監視科長 :佐藤 直人
保全科長 :木村 元

環境省では、東日本大震災が沿岸地域の自然環境に及ぼした影響を把握するための調査を実施しており、この度平成25年度の調査結果を公開しました。 平成25年度の調査結果からは、津波浸水域の植生調査において平成24年度に比べて耕作地が増加しており復興による耕作の再開が認められた他、被災した海岸防災林などに新たに出現した湿地の調査では、メダカやゲンゴロウなど希少な動植物を確認しており震災後に特有の生態系が出現していることが確認されました。その他に、自然環境保全上重要な特定植物群落の震災後の状況調査を実施し、津波浸水域内の23群落が津波によって消失するなどの影響があったことを確認したほか、干潟、アマモ場、藻場、海鳥繁殖地の生態系の変化等について平成24年度に引き続きモニタリング調査を行い、震災後の変化状況について把握しました。
これらの調査結果の内容が記載された報告書及び植生図、植生改変図等のGISデータをウェブサイトに公開しました。

1.背景と目的

2011(平成23)年3月11日の東日本大震災は、東北地方太平洋沿岸地域を中心とする多くの人々の生命や財産に大きな影響を与え、その地域の自然環境にもきわめて大きな影響を与えました。これらの地域における自然環境は、地震発生から3年以上経過した現在においても変化を続けており、震災前の状況に戻りつつある場所や、震災前とは別の新しい環境が出現し、自然遷移が進んでいる場所もあります。
東日本大震災復興対策本部は東日本大震災からの復興の基本方針(平成23年7月29日付け)において、「津波の影響を受けた自然環境の現況調査と、経年変化状況のモニタリングを行う(5(4)⑥(ii)」こととしており、環境省生物多様性センターでは、今回の地震等が地域の自然環境に与えた影響とその後の変化状況の継続的なモニタリング調査を実施しています。
平成25年度は、植生の変化や特定植物群落の状況、干潟、アマモ場、藻場、海鳥繁殖地の生態系モニタリングなどを実施し、この度、以下の調査成果をウェブサイトに公開しました。(しおかぜ自然環境ログ)。

掲載データ一覧
○平成25年度東北地方太平洋沿岸地域植生・湿地変化状況等調査(PDF)
○平成25年度東北地方太平洋沿岸地域生態系監視調査報告書(PDF)
○GISデータ(shape、kml形式)

震災後植生図2013
平成24年度調査で作成した震災後植生図よりさらに新しい時期の植生図です。
植生改変図2013
震災前植生図と震災後植生図2013を比較し、改変状況を表した図です。
植生調査現地調査地点
平成25年度に実施した現地調査の位置と現地写真です。
重点地区調査
震災の影響が大きかったと思われる13地区において実施した、生態系を横断的に把握するためのベルトトランセクト調査、環境区分毎の動植物調査等の結果です。
新たに出現した湿地の調査
震災後新たに出現した12地区の湿地において実施した、動植物調査の結果です。
特定植物群落の調査
自然環境保全上重要な植物群落として選定された特定植物群落126箇所について地震等による影響を含む変化を調査した結果です。
重要湿地調査
「ラムサール条約湿地潜在候補地」および「日本の重要湿地500」に該当する169湿地について、文献の収集整理、現地調査を行った結果です。

2.調査結果の概要

平成25年度の調査成果のうち、代表的なものを以下に示します。

植生の変化
青森県から千葉県までの津波浸水域(577.9km2)における植生の変化の傾向を把握するために、自然植生(自然林、湿生草原、砂丘植生など)、自然裸地、植林、二次植生(二次林、非耕作農地、空地雑草群落など)、耕作地、土地利用(市街地、造成地など)、その他(外来種木本群落、解放水域)からなる7区分を設定し、区分毎の面積を下図の通り集計しました。
二次植生は、震災前に23.1km2から平成24年度には185.8km2と大きく増加していましたが、平成25年度には153.5km2に減少していました。また、耕作地については震災前の246.0km2から平成24年度には80.9km2と大きく減少していましたが、平成25年度は111.8km2に増加していました。このことから二次植生が耕作地に変化したと考えられ、復興による耕作の再開が認められました。
土地利用についてみると、平成24年度の191.5km2から平成25年度は199.3km2とわずかに増加しており復興工事に係る造成地が増えていると考えられます。

写真-1

津波浸水域における植生の変化の傾向

新たに出現した湿地の調査
津波浸水域や隣接区域において、津波や地震による地盤沈下により震災前には見られなかった新たな湿地が出現しました。震災後に新たに出現した12地区の湿地において、湿地環境の特性や変化を把握するための動植物調査を実施しました。その結果、新たに出現した湿地には土中に含まれていた種子から発芽したミクリ(環境省レッドリスト:準絶滅危惧)やタコノアシ(同:準絶滅危惧)などの湿性草本やリュウノヒゲモ(同:準絶滅危惧)などの水草が繁茂し、メダカ(同:絶滅危惧Ⅱ類)やゲンゴロウ((同:絶滅危惧Ⅱ類)などの希少な水生昆虫類が生息していることがわかりました。これらの湿地が希少な生物の生息・生育の場となる可能性があることから今後注目すべき場所となっています。
また、宮城県の広浦の南東側などには、被災した海岸防災林の倒木したクロマツの根があった場所の窪地に水が溜まり、湿地環境が形成されていることを確認しており、震災後に特有の環境となっていました。
写真-1 写真-2
宮城県で確認されたゲンゴロウ 倒木跡に出現した湿地

特定植物群落の状況
特定植物群落(自然環境保全上重要な植物群落として環境省が選定)について、津波浸水域を含む市町村に存在する特定植物群落(126件)の現況調査を実施しました。
平成24年度の調査結果とあわせると、地震等による影響がみられた群落数は23件(内訳:群落消失8件、面積減少11件、個体数減少または群落構成変化4件)あり、それらはいずれも津波浸水域内でした。県別にみると、最も多かったのは宮城県13件、次いで千葉県4件、青森県、岩手県、福島県はいずれも2件、茨城県は該当なしでした。植生タイプ別にみると、地震等による影響を受けた群落の多くは、海浜植物群落、池沼・塩沼植物群落でした。
写真-1
津波により植生が消失した井土浦の塩生植物群落(宮城県仙台市)

生態系のモニタリング
青森県から千葉県までの太平洋沿岸地域において、津波等震災の影響を特に受けたと思われる生態系に着目し、干潟の底生生物、アマモ場、藻場、海鳥の繁殖地についてモニタリングを行いました。
干潟:震災以前にみられた種が確認できないサイトがありましたが、全体的には震災直後に比べて干潟環境は安定してきており、出現種数は増えていました。
アマモ場:震災前に比べると調査サイトのアマモ類は減少しており密度が低い状態となっていますが、若干の回復傾向もみられています。
藻場:震災前と比べると被度は減少していますが、震災後は全体的にみると概ね回復傾向がみられました。
海鳥繁殖地:各サイトで土壌流出、植生の変化等が観察されました。
写真-1
(干潟調査)井土浦サイト(宮城県仙台市)の各調査エリアで確認された底生生物の門別の種数。
いずれのエリアにおいても底生生物の種数は増加した。
写真-1
(アマモ場調査)万石浦黒島西岸における水深勾配と出現海草藻類の垂直分布図模式図
2006年は第7回基礎調査(藻場調査)の結果(上)を基に作図。
震災により0.9m程度の地盤の沈下が見られ、2012年には岸から40m程度離れた場所にわずかにアマモが確認されたが、2013年には岸周辺と75mと90m離れた場所において確認され、群落回復の可能性が期待される。

3.今後の予定

平成25年度には、これまでの結果を地域の復興に役立ててもらうことを目的として、主に平成24年度までの調査結果をもとにして自然環境保全上重要な地域を示したマップ「重要自然マップ」の作成を行いました(本年4月4日公表)。
今後、平成25年度の調査結果も活用しながら、重要自然マップの更新を行っていく予定です。

4.参考

しおかぜ自然環境ログ