みちのく潮風トレイルを思いっきり楽しみたいなら、その道のスペシャリストに聞くのが近道!
ロングトレイルの達人「シェルパ斉藤さん」と、アウトドア女子の憧れ「四角友里さん」に、
みちのく潮風トレイルの楽しみ方とアドバイスをいただきました。
みちのく潮風トレイルは、目の前に海が広がるオーシャンフロントの道がほとんど。海を高い場所から眺めるだけでなく、海辺の砂浜を歩ける道もあるので、一日中、海の存在をちかくに感じて、潮風が耳に響き続けるようなトレイルハイクができます。八戸の種差海岸を歩いたとき、私は1日目にトレイルとキャンプ、2日目に陸奥湊の朝市と遊覧船を楽しみました。1日目は歩きながら陸に暮らす人にとっての海を感じて、2日目で旬のウニを食べたり波の上をたゆたったりして、海そのものを味わったわけです。その2日間は、陸と海、2つの自然のはざまにいたようでした。このときの季節は夏。東北の太平洋側では、6月から8月にかけて冷たい風、「やませ」が吹くそうです。そのやませによって生まれた、海辺に高山植物が咲くという不思議な景色に目を奪われました。同時に、特別な気候をもつ土地に根付いた“言葉”も知ることができました。それは、海とともに暮らしてきた人たちが受け継いできたもの。厳しさと美しさがつつみ込まれています。ここに来ると、そんなふうに東北に根付いた風土を日本的な情緒として感じられる。みちのく潮風トレイルは、広い意味で「旅」なんだと思いました。
大船渡・碁石海岸のトレイルでは、素敵な出会いもありました。私は、BRT(バス高速輸送システム)の碁石海岸口から入り岬をぐるりと周って、穴通磯まで行く4時間ほどの計画を立てていました。三面椿を見た後、ふと鮮魚店に立ち寄ったんです。そこで働くおとうさん・おかあさんと「どこまで行くの?」「穴通磯まで行きます」というやりとりをしたら、「遠いから車で連れて行ってあげようか?」と言われました。せっかくのご好意でしたが、歩くために来たのでお断りして、碁石海岸を歩いていたら、鮮魚店のおとうさんとは別のおじさんに車から話しかけられたんです。その方は、鮮魚店のおとうさんの同級生だそうで、私が立ち去った後に、「やっぱり車で乗せていってあげたほうがいいと思う」と3人で話し合ったことを伝えてくれました。おじさんは、「震災で東京の若い人がたくさん来てくれて、お世話になったから」と言って。私は、自分がいなくなった後にそんな会議をしてくれたこと、ボランティアに来たのは私ではないのにやさしくしてくださった温かさに胸がいっぱいになり、その気持ちに甘えて車に乗せていただくことにしました。だから、正直に言うと、碁石海岸エリアはそんなに歩いていないんです(笑)。でも、とってもいい思い出です。私はこの町に「また、必ず歩きに来ますね」と伝えました。
みちのく潮風トレイルは、震災の記憶をたどり、東北の今を知ることができる場所でもあります。宮古のトレイルでは、浄土ヶ浜から震災メモリアルパークのある中の浜まで足を伸ばしました。浄土ヶ浜の景色は圧巻で、続く森も豊か。三陸特有の松林と海の織りなす美しい景色には感激しましたね。その後、中の浜に着くと、津波が15mの高さまで迫った施設が残されていました。みちのく潮風トレイルでは、見渡すと何もないさら地を目にすることも多く、胸が苦しく重くなります。でも、それも含めて、自分の足で歩き、見て、知れたことに意味がある。ここで心に焼きつけた現実、山と海の美しさに感動した気持ち……その両方を大事に受け止めたいと思いました。自然をただ怖れるのではなく、畏れ敬い生きてゆけたら、と。私は震災当時、海外に住んでいたこともあって、報道を見たり、募金したりすることでしか東北と接点が持てずにきました。でも、今はみちのく潮風トレイルで等身大の接点をみつけることができた。私は歩くのが好きだから、それをとおしてつながっていくのは一番“自然なこと”だと感じています。だから一度歩いて終わりじゃなくて、何度も長く通う道にしようと決めました。トレイルに足あとを残すことは、訪れた地に自分の魂のかけらを置いてくることなんだと思うんです。
初心者の方や女性向けには、みちのく潮風トレイルと観光をくっつけて、アウトドア旅として広く楽しんでみることをおすすめします。例えば、宮古市区間ならば1日は盛岡観光をして、もう1日は浄土ヶ浜を歩く。食も私にとっては旅の大切な要素。盛岡には喫茶店の文化があるので自家焙煎の珈琲豆を買ったり、浄土ヶ浜でウニラーメンを食べたりしました。また、歴史・伝統に触れるのも楽しみのひとつ。八戸には八幡馬(やわたうま)や南部裂織(なんぶさきおり)、仙台にはこけしなど、東北には北欧雑貨なんて目じゃないくらいにかわいい民芸品がたくさんあって、その土地で生まれ、根づいた文化もたくさんある。帰ってから眺めると、旅の思い出に包まれるようで楽しいんです。買い物や食も楽しんで、東北をまるごと満喫してみてはいかがでしょうか。私は山登りもしますが、草花などはもちろん摘んで帰れないし、山からたったひとつだけ持ち帰れるのは《胸の中に宿る》思い出です。それに里や街での旅の要素を加えて、自分だけの物語を作ってゆけることが、みちのく潮風トレイルの良さなんだと思います。
トレイルマップを取り寄せて計画を立てるときは、食事ポイントやトイレポイントをチェックしておいてください。逃がすと当分ない場合もありますし、冬季閉鎖していることもあります。服装は、観光ではなく、歩く旅なので、遠足に行くくらいのイメージで。海風に1日中さらされることになりますので、それなりの防寒対策も必要です。また、ウエアは写真を見返して旅を思い出す大切な要素になります。海の青がきれいなので、補色の黄色は映えますよ。逆に同じ青を身にまとえば海の色とひとつになれるし、シックに着こなせますね。2日以上のトレイルの場合、リバーシブルウエアなら荷物もへらせますし、気分も変えられるのでおすすめです!
海風が強いときの体温調整に重宝します。軽量でコンパクトに折りたためるものだと荷物にもなりません。
風にさらされると体が冷えるので、温かい飲み物を入れて持っていきました。私は、白湯や薄めた葛湯を入れていましたね。
登山や自転車用のサコッシュをリュックとは別に用意すると便利。おやつや地図、小銭入れが、立ち止まらずに片手でサッと取り出せますよ。