トレイル初心者ガイド

みちのく潮風トレイルの楽しみ方

みちのく潮風トレイルを思いっきり楽しみたいなら、その道のスペシャリストに聞くのが近道!
ロングトレイルの達人「シェルパ斉藤さん」と、アウトドア女子の憧れ「四角友里さん」に、
みちのく潮風トレイルの楽しみ方とアドバイスをいただきました。

シェルパ斉藤

シェルパ斉藤
海のエネルギーと濃い自然、人との出会い…その人にしかできない旅が待っている。

壮大な太平洋を眺めながら、
自然豊かな海のアルプスを歩く。

みちのく潮風トレイルの魅力は、やっぱり海。風光明媚なリアス海岸や急峻な断崖沿いを歩く区間もあります。びっくりしたのは「海のアルプス」。想像以上にしんどい。とんでもなく登らされて、下って、また登る。その繰り返しは山のアルプスに負けていない。それにルート上の標識のいくつかは動物にかじられた痕跡がありました。たぶんクマでしょう。ミサゴやノスリなどの猛禽類も多くて、海沿いのトレイルなのにワイルド。壮大な太平洋の景色を眺めつつ豊かな自然を歩く、本格的なハイキングが楽しめます。八戸線や三陸鉄道など列車が走っている区間もあるからレイル・アンド・ウォークもいいでしょう。初めてみちのく潮風トレイルを歩いたときは息子と犬2頭を連れていったのですが、その方法で旅しました。駅の駐車場に車を停めて、ある地点の駅までみんなで歩いたら、息子と犬を駅舎に待たせて僕は列車で戻って車をピックアップ。そのあと車に乗って温泉に行ったり、食事に行ったりして楽なスタイルで旅をしました。同じコースを、歩き・鉄道・車のそれぞれで移動するから、非常に濃厚な旅になった気がします。山登りではできない、海のトレイルならではの楽しみですね。旅のおもしろさに満ちたトレイルなんです。

シェルパ斉藤

自由に歩き続ければ見つかる自分のスタイルと旅のリズム。

北山崎自然遊歩道にある手掘りのトンネルは感動的。漁師が通路として堀ったのかと思ったら、そうじゃない。昔、国立公園に指定された時に遠方からこんなところまで来てくれるんだからと、歩きが楽しめるようにおもてなしのために作ったそうです。歩いてみたら真っ暗だし、岩肌がゴツゴツしていてかなりスリリングに楽しめました。僕は全行程踏破が目標だから、八戸の蕪嶋神社から設定されたルートに従って歩いているけれど、何が何でも設定されたルートを行かなくてもいいと思う。ロングトレイルの宿命として、土の道だけじゃなくて舗装道路もあるし、子連れで歩くにはつらい交通量が多い道路もある。そういう場合は公共交通機関に乗ったりしてパスすればいい。逆におもしろい発見や出会いがあったら時間をかければいい。フレキシブルかつ自由な発想で自分に合ったスタイルで歩けばいいんじゃないかな。海外のロングトレイルだってそう。アメリカのアパラチアン・トレイルなんて全長約3500kmもあるけど、全行程を一気に歩くスルーハイカーは全体の1~2割程度しかいない。それぞれが休みの期間や体力などを考えて、どこのルートがいいかを自分で決めて自己責任で歩いています。それでいいと思う。私は私。自分にあった道を行けばいい。とはいえ、ロングトレイルの旅は1日より2日、2日より3日、3日より1週間というように長ければ長いほどおもしろみが増していくことも事実。どんどんその世界にはまりこんで、旅のリズムができてくる。自分のスタイルも確立してくる。そうなったらやめられなくなるんだよね。

シェルパ斉藤

その人にしかできない出会いとドラマが待っている。

人との出会いもロングトレイルの楽しみ。ラブラドール・レトリーバーと柴犬の2頭の犬を連れて歩いたときに、地元のじいさんが柴犬を見て「めんこいな、エサあげてもいいか」とやって来た。話を聞けば、10日くらい前にじいさんの犬が死んじゃったらしい。いつもじいさんが車に乗っけていた、その犬は柴犬。じつは僕が連れていた柴犬は、1ヶ月前に亡くなった義父から引き取った犬なんです。その話をしたら、「この犬、俺にくんねえか!」。さすがにそういうわけにもいかずに断ったけど、別れる段になっても「いいんだぞ、もらってやっても」って(笑)。最後は、僕らが見えなくなるまで見送ってくれて……。あれは強烈な思い出ですね。でも僕だけじゃない。誰にでもそういう出会いはあるはずです。東北の人は概してシャイだから、向こうから話しかけてくるケースは少ないけど、こちらから声をかければ応じてくれる。道を聞いたりするのが一番。教えてもらったあと「どこから来た? どこまで行くんだ?」という話になる。海沿いに住む人は、海のチカラを多くの人に知ってもらいたいと思っているはず。津波の厳しさも含めて、海の豊かさをね。震災の話も腫物にさわるような感じじゃなくて、普通に聞いてみたら、本音を語ってくれると思いますよ。

復興の道は、イマジネーションの道。
祈りを捧げながら歩こう。

みちのく潮風トレイルは、復興の道でもある。未来に向かって立ち直っていく被災地を応援する。それが歩くきっかけの1つにもなるでしょう。復興の道はイマジネーションの旅、かもしれない。震災以前の風景と今では風景が違うわけです。津波が来る以前はどうだったのか、どんなことが起きたのか、想像して、祈る。ここを歩くことがどういう意味があるのか、ハイカーたちは自然と考えることになるでしょう。みちのく潮風トレイルは、将来的には巡礼の道になればいいと思います。津波の遺産として、人々に祈りを捧げながら歩くようなトレイルです。たとえばスペインのサンチャゴ巡礼路なんかは距離が約800kmで、みちのく潮風トレイルの全長と同じくらいです。みちのく潮風トレイルも世界中から旅人がやってくるサンチャゴ巡礼路のようになったらいいなあ。そもそも日本には1200年前から四国八十八カ所のお遍路があって、熊野古道もある。巡礼路を歩く文化が根づいているわけです。日本の場合は百名山をめざすような垂直方向の移動に憧れる登山志向が強いけど、水平方向に歩く旅にもっと出てもらいたい。ロングトレイルは、歩ける人なら誰でも行けるけど、その人にしかできない出会いやドラマが待っている。だからこそ、歩く価値があるんです。

シェルパ斉藤

初心者へのアドバイス

計画を立てるために、まずはこのサイトからトレイルマップを取り寄せましょう。地図を見て、どこをどう歩くか、あるいはここは省略しようか、というプランを決めます。地図は地形図をもとにしてあるので標高差もわかるし、食料が調達できそうな集落などの目星もつく。そして時刻表などを見て、行き帰りの予定を考えたらいい。ウエアは重ね着が基本。着たり、脱いだりすることで温度調整がしやすくなる。意外に大事なのが靴下。綿素材だと汗でガビガビになってしまうから、化繊やウール素材をセレクト。休むときは靴下を脱いで汗を乾燥させる。足が洗えたらなおいい。疲れがとれてマメもできにくくなる。こまめに履き替えることも大切です。長旅の場合は、洗濯してリュックに吊るしておけば歩いている間に乾きます。

シェルパ斉藤 おすすめグッズ!

ハイドレーション
ハイドレーション

ザックに収納して歩きながらこまめな水分補給が可能。脱水症状が防げるうえ、休憩時にまとめて水分補給するよりも消費する水の量が少なくて済む。

防水デジタルカメラ
防水デジタルカメラ

夏場は海に入ることもあるので、塩水をかぶっても落としてもOKなタフなカメラが便利。雨天時は地図を撮影しておけば、紙の地図代わりにチェックできる。

海用スリッポンサンダル
海用スリッポンサンダル

休憩時は靴を脱いでサンダルで寛ぎたい。足先が保護されているタイプなら岩場を歩くこともできる。ずっと歩き続けることはおすすめできないけどね。

プロフィール

シェルパ斉藤
シェルパ斉藤(しぇるぱ・さいとう)紀行作家 / バックパッカー
1990年に東海自然歩道を踏破。以降、アウトドア雑誌を中心に紀行エッセイを長期連載中。トレイルの名がつく日本のルートをもっとも多く歩くバックパッカーであり、年に1度は海外のロングトレイルにも。日本ロングトレイル協議会のアドバイザーも努め、ロングトレイルを旅する魅力を伝え続けている。歩く旅に関する著書多数。