ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

東北地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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十和田八幡平国立公園 鹿角

126件の記事があります。

2010年10月12日心地良い時間

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 八幡平の中腹の紅葉も今ちょうど盛りを過ぎようとしています。毎年、この時期、鬱金色に色づいたブナ林の間に点在する大沼~蒸ノ湯~大深~後生掛の素朴な温泉をのんびり歩きながら訪ねる「湯けむり紅葉路をいく自然観察会」が行われ私も参加しました。

 出発前に案内にあたる八幡平ビジターセンタースタッフやパークボランティアに「COP10直前なので、生物多様性を考えるガイドを」とお願いしましたが、余計なお世話だったようです。朝方まで強く降った雨が上がり、登山道には分厚くブナの落ち葉が積もり、腐葉土と菌類と木々が放つ芳香成分が森に充満しています。こんな中で難しい生態系の話聞くより、ゆっくりと時間を過ごしたことが、参加者には印象深かったようです。

 心地良い時間を提供できるのは、話術にたけたガイドよりも豊かな自然そのものという当たり前のことに改めて気づかされた1日でした。

大谷地湿原まであと僅か。ブナ林の中の休憩に自然と参加者の表情も和らぎます。

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2010年09月26日登山道を守る

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 9月26日の朝、八幡平から岩手山の方向を見上げると山頂付近に白い筋が何本も光っています。自然公園財団の及川さんに確認したらまちがいなく初雪
とのこと、今年もこの山域は日によっては初冬並に温度が下がる時期となったことを実感しました。

 異常天候と言われた今年、八幡平・岩手山エリアでは登山道の浸食が特に激しかったような気がします。従来では考えられなかった短時間の集中豪雨により登山道上を多量の土砂が流れ下り、深く掘れたり、危険な浮き石が出て来ています。公園管理員さんやパークボランティアさん達と危険箇所の点検修理を行っていますが、少人数ではなかなか手が回りません。

 そんな中、秋田駒ヶ岳では秋田県が呼びかけ地元の個人団体が参加して登山道の補修作業が行われました。場所はシャクナゲルートの焼森直下の火山砂礫地帯。植生が破壊された結果、浸食が進み登山者が滑って転倒する危険性が指摘されていた地点です。浸食防止と植生回復を同時に行っていくことを目的にパークボランティアが作業設計を行い、資材もボランティアファンドによって調達、当日は25名が荷揚げから補修の厳しい作業に挑みました。現場を通る登山者からの「御苦労さん」「がんばって」の声がなによりの励ましだったそうです。

 すでに「裏磐梯」や「羽黒」のアクティブレンジャーが何回もこの欄で述べているように登山道を安全に歩けるということは、そこに必ず登山道を守っている人達の存在があります。自然公園が今後もより良い状態であるために「縁の下の存在」にもっとスポットライトがあてられていいのではないかと感じた一日でした。

最大の難作業は資材荷揚げ。重いカラマツ材を持ち上げる。最後は脂汗が出てくる。

植生土のうに現場の流れた土砂を詰めて登山道を守る。

作業完成。土留め工と植生回復作業を同時に行う。後方は最高峰「男女岳」。

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2010年09月03日秋田駒ヶ岳のサブレンジャーたち

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 秋田駒ヶ岳では毎年夏の季節になると「サブレンジャー」と称する若者達との出会いがあります。主に都会に生活する大学生達で夏の間だけ秋田駒ヶ岳一帯のゴミ拾いや高山植物を守るパトロールを経験するためにやってきます。

 秋田県に来るのも初めての若者が多く最初は自信なさそうな表情で登山道で
花の名前聞かれたらどうしようかと真剣に心配していますが、真っ黒に日焼け
して任務の終わりが近づくと「まだまだ帰りたくない」という風に変化します。彼らの面倒を見る地元の人達も難しい理屈は誰も押しつけず日々たくましくなっていく彼らを優しい目で見守っています。

 私自身も今年はずいぶん彼らに助けられました。「小白森への利用者指導標識運び上げ」や「田代沼湿原の木道修理」では重い器材運搬を嫌な表情一つせず黙々とこなしてくれました。ここでサブレンジャーを経験した若者の中から
各地で自然保護NPOやエコツーリズムのガイドのメンバーが誕生しています。

 今頃は暑い都会の教室に帰って「遠い秋田駒ヶ岳の澄み切った涼しい風をなつかしんでいる」かどうかはわかりませんが、彼らがいなくなると山も静かに
なり秋の風が吹き始めます。

サブレンジャーと行った乳頭山麓での木道補修。暑い日で途中飲んだ沢の水のうまさに感激していた。

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2010年08月02日霧の中の八幡平にて

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 日本各地で猛暑のニュースが話題になっていますが八幡平は、このところ濃い霧にすっぽりと覆われる日が続いています。8月に入ってもこの天気で夏休み最盛というのに八幡平湿原では滅多に人と行き会うことがありません。そんな中、私は一人で源太別れの木道脇で秋に予定されている湿原植生回復作業の予備調査をやっていました。


霧雨の八幡平湿原木道。湿原では人知れず秋の色に衣替えが進行中。

 突然、霧の中から御夫婦と見られる二人連れが現れ、霧の中で一体何をやっているのか不思議に思われたのでしょう、私に話しかけてくれました。私も深く考えもせず「せっかく来られたのにこんな天気で残念でしたね。何も見えませんしね。」と答えてしまいました。このお二人は何とも言えない微笑みを浮かべこう言ったのです。「私たち、霧の中で静かな湿原の雰囲気を充分楽しんでいますよ」

 調査作業を終えて自然公園財団の頂上事務所に寄って、この話をしたところ
そこで働いている及川さんが「霧の中でも八幡平を楽しんでくれるというのは心に余裕があるお客様もいるってことね」と感心した様子でした。

 花が盛りを過ぎ、遠くの眺望がきかないような日であっても八幡平の自然環境の素晴らしさを感じ取ることのできる訪問者がいるということは覚えておこう。その一方で見通しのきかない時は、ルートを失ったり、転倒など思わぬ事故の可能性も高まることから、いつも以上の慎重な行動と判断力がここ八幡平でも求められると感じた霧の一日でした。

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2010年07月02日八幡平で植物の盗採続く

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 八幡平では雪解けが大幅に遅れた結果、様々な植物達が時期を同じくして一斉に花を咲かせるという現象が起きており訪れる人々を喜ばせています。

 その一方で6月には秋田駒ヶ岳でシラネアオイや年々数を減らしているコマクサが株毎引き抜かれるという悲しい事件が発生しました。7月に入って今度は八幡平の樹海ライン沿いでハクサンチドリやノビネチドリなど10数株が盗採にあい、この時は目撃者の通報により現場で犯人が検挙されるという事態にまで発展しました。私たちも手作りの看板や横断幕をつくって特別保護地域での山菜を含む植物盗採防止を呼びかけていますが、一部の山野草マニアや山菜採りはそんなものは気にかけずに盗採を行っています。

 今年は子供達対象の自然観察会が八幡平で行われる度に「生物多様性の大切さ」を説明しています。そんな子供達の目に大人の植物盗採の行為はどのよう映るのでしょうか?



6月下旬、八幡平で環境省主催により高山植物盗採防止の為の合同パトロールを行いました。お互いに情報交換をしながら協力して盗採防止に努めることで意思統一を図ったのですが・・・。

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2010年06月13日今年は残雪の多さに注意。

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 毎年6月中旬といえば八幡平も秋田駒ヶ岳も高山植物をもとめて多くの方が訪れるのですが今年は少し様相が異なります。冬期の降雪量自体は極端に多い訳ではなかったのですが、春先の長く続いた低温で雪解けが進まず、八幡平全域で全てのルートで夏の登山道が完全に露出しているところは、まだありません。いたるところに雪の斜面が登山道を覆い隠しており、焼山方面では登山者の遭難事件が発生しました。

 軽装で地図・コンパスを持たないで入山する方も多く、悪天候・濃霧の中ではルートを見失ったり滑落の危険性があります。そのため休日返上でパークボランティアが主体となり、県や市の職員、自然公園管理員の皆さんとルートの安全工作作業を行っています。危険な斜面はスコップ手作業で歩くスペースを確保し、ルートを示すテープ標識や谷への進入阻止表示を行っていますが、アプーローチの容易な山域だけにかえって残雪の多いこの時期の入山には注意が必要です。


八幡平茶臼岳の東面の雪の壁に安全なルートを確保する。ルート工作前はこの斜面で滑落する利用者が相次いだ。

秋田駒ヶ岳の新道で谷への進入防止柵を設置するパークボランティア達。

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2010年05月29日八幡平、地球のいのち描いてみよう

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 今、八幡平ビジターセンターでは訪れる方々へ、「ここ八幡平で生きもの達とのつながりを考える」呼びかけを行っています。

 大きな模造紙に岩手山から八幡平に連なる広大な背景を書いて、そこに一人一人の想いと好きな生きものを書いた絵を張っていただいています。絵を描くことで「生物多様性を守る取り組み」に参加できるということで今までに250を越える様々な絵とメッセージが書き込まれました。

 その中に1枚、ウサギと並んだ笑顔の少女の絵があり「みんな、なかよしだね」と書かれていました。これを書いた(おそらく小学生?)子供は難しい理屈ではなく直感的に生きものたちとのつきあいかたを表現してくれたのだと思います。この取り組みは6月いっぱいを予定していますので、八幡平ビジターセンターを訪れた際は、是非みなさんの想いを描いていって下さい。

校外学習で訪れた花輪北小学校の子供達は限られた時間の中でたくさんの生きもの達を残していってくれました。

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2010年05月06日八幡平山頂でのふれあい

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 連休最終日の5月5日、八幡平山頂で「みどりの月間」にちなんだ自然観察会を行いました。青森・岩手・秋田の三県からボランティアスタッフも含めて総勢41名が集まってくれました。

 まだ頂上付近は3m近くの雪が残っているため、日本古来の輪かんじきから最新のスノーシューまで思い思いの道具をつけて夏の間は歩くことのできない湿原の中央部やアオモリトドマツの林間ハイキングを楽しんでもらいました。

 目的は多様な自然と生き物との「ふれあい」だったのですが、スタッフの反省会で「最も大きな成果は参加者同士のふれあいだった」という指摘がありました。各地からの個人参加者が多く出発時点はほとんど会話も無かったのですが、終わる頃には気軽な会話が飛び交うような雰囲気が出来上がってきました。良い自然は人の閉ざされた心を解放してくれる不思議な力を持っているのでしょうか?


夏の間は入ることのできない水蒸気爆発の火口の中で八幡平の火山活動の活発さを実感することができました。

アオモリトドマツの枝の「中抜け現象」がどうして生じるかを目の当たりにする参加者。積雪面付近の枝が下に沈降する雪に引っ張られた結果もぎとられていきます。

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2010年04月23日八幡平の自然を守ってきた人達(その3)

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 今年も蒸ノ湯ゲート脇で行われたアスピーテライン開通式に参列した地元、鹿角山岳会のメンバーの中に人一倍雪焼けした見慣れた顔を見つけました。
 
 伊多波 富雄さん。私がアクティブレンジャーとして赴任して最初にお会いした地元衆です。当時は秋田県の自然公園管理員をつとめておられ、早速に登山道上の倒木の情報提供と処理について的確なお話しをしていただきました。 それ以来、四季を通してふだん行くのが困難な公園内の様々な箇所に連れて行ってもらい八幡平の奥深さを教えてもらいました。一緒に歩いていると色々な「知恵」を学ぶことができます。例えば冬にルートの目印を木につける時は結び目を登ってきた一定方向に揃えておくと、視界不良になっても下る方向がわかるといったようなこと。

  シーズン中には何度も主要ルートを巡回し、刈り払いや崩壊箇所の修理、危険箇所のロープ張りと人目につかないところで黙々と活動を続けてくれました。「よそから来てくれる方に安全で楽しんでもらうように努力するのが地元としての責任」というのが彼の口癖です。昨年から管理員の職を後輩の山口さんに譲りましたが、心身共に八幡平の自然を守る活動ではいまだバリバリの現役です。

 


伊多波さんが私にこう言ったことがあります。「山を逃避の対象として来る人がいるが、それは違う。本当は自分が前向きになれる場所が山なんだ」

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2010年04月15日八幡平ビジターセンター開館します。

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 長かった冬休みを終え、八幡平ビジターセンターが4月16日(金)から開館します。同じ日にアプローチ道路の八幡平アスピーテラインも全線開通します。とは言え、周囲はまだ高い雪の壁に囲まれ、時折吹雪くこともありますがビジターセンターの中では元気なスタッフが展示物や器材の手入れに大忙しです。

 責任者に聞いてみると八幡平ビジターセンターでは受付スタッフが来館者とコミュニュケーションをとり、会話の絶えない暖かい雰囲気をつくっていくことを重視しているとのこと。展示施設を本当に生かしていくのはこういった目に見えないスタッフの心配りがあるんだなあと感心させられました。

 5月に入ると地元画家による絵画展「八幡平 冬から春へ」が企画されており、その後はアクティブレンジャー写真展の連続開催も予定されスタッフも当分は忙しい日々が続きそうです。


開館間近の八幡平ビジターセンター。3回もの除雪でやっと建物が出てきました。

今年のビジターセンター運営スタッフです。多彩な能力と多様な個性を持って八幡平を語ります。

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