ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [東北地区]

東北地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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十和田八幡平国立公園 鹿角

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2008年08月20日八幡平マタギの話を聞くことのできた夕べ

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 八幡平ビジターセンターの夏休み企画「先人の自然観を感じよう―人間と動物たちの物語」に参加しました。実際の八幡平マタギの方のお話を聞いたあとに
夜の大沼周辺をハイクするという魅力的なプログラムでした。

折からの雨で人数は少なかったものの関東方面からのビジターやパークボランティアなど十数名が夜のビジターセンターに集合しました。春澤権次郎さん。
昭和9年に岩手県の田山村袰部(現八幡平市)に生まれ13歳の時から本格的なマタギ猟に加わってきたという方で、もの静かな口調を通じて当時のマタギの生き生きとした世界に参加者全員が引き込まれてしまいました。

その後は真っ暗な屋外に出ても懐中電灯は使いません。マタギの村で使われてきた「カシブ」という山ブドウの皮を太く編んだ縄に火をつけます。線香花火みたいな火で道を照らして歩きます。もう少し明るさが欲しい時は縄を振るとさっと一瞬燃え上ります。雨の中でも消えないその灯の美しさ。昼間なにげなく通った自然観察路も別の世界に変わります。あちこちに「ケモノ道」が現れ動物の生々しいにおいまで感じられるような感覚におちいりました。
眼がすっかり暗さに慣れてしまうと、夜の照明って本当に必要かと思ってしまいます。

ビジターセンターに戻った参加者に権次郎さんは「昔は森の奥にクマがいて、
自分らの住んでいるそばには絶対近づかなかった。ところが人間が森の奥を荒らし食べ物を奪っておいて、ゴミを捨てたり人間の食べ物の味をクマに覚えさせたので里近くに降りてくるようになってしまった。みんな人間がそうさせた」と語りかけます。「だから何十年かかるかわからないが昔の森にかえして
いきたい」とも。

ビジターセンターが企画した「生活自体が山の自然と結びついていた人の言葉で現在の環境問題を語らせる」というねらいが見事に表現された一夜でした。


マタギの正装を身につけた権次郎さん。


実際のクマ狩りの様子:一人のボランティアをクマに見立てて熱演。


屋外では参加者がウサギ狩り体験も試みました。

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2008年07月17日子供たちの視点

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 鹿角のアクティブレンジャーの大堀です。梅雨の合間の晴天となった日曜日は八幡平ビジターセンター主催で地元、鹿角市花輪小学校の親子自然観察会を行いました。

 5歳児を含め小1から小6まで親子、先生総勢81名、自然解説を担当したパークボランティア10名に引率され八幡沼湿原の周辺を歩き無事行事を終了することができました。

 従来、自然観察会といえば参加者は団塊世代以上の中高年主体でしたので今回ばかりは勝手が違ったようです。

 ウグイスの囀りに子供たちにその意味を聞いたら、「僕たちの道案内をしてくれているんだ」という答えが返ってきたり、コバイケソウの花穂を説明したら「トウモロコシの実そっくり」という表現が飛び出したりと経験豊富なボランティアにも子供たちが新鮮な感動をくれたようです。

 反省会で多く出たのは、子供ならではの視点と感性に逆に学ぶものがあったという点です。彼らは事前の余計な知識が無い分、自然解説にほとんど興味を示さないかわりに感覚的に目の前の自然をとらえようとしていました。ワタスゲの果穂の柔らかな触感やネバリノギランの花茎のネバネバには身をのりだして熱中したりして。

 そんな子供たちに源太森の頂上で一人の年配のボランティアが語りかけます。「私たちおじいさんの世代はあなた達にこの八幡平の貴重な自然を残したくて活動してきました。どうか大きくなったら是非私たちの活動を引く継いで下さい」と。「彼らが大人になった時、きっと何人かはこの風景と言葉を思い出してくれるね」との期待がふくらんだ1日でした。



八幡沼の木道を行く。子供達は冷たい沼の水に手をいれたくてしょうがない。


木道の隙間の水溜まりでシュレーゲルアオガエルのオタマジャクシを見つけたらもう動かない。


花の終わったチングルマの花柱の絹毛のような感触をいつまでも楽しむ。

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2008年07月07日八幡平VCで環境問題を考える

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 北海道洞爺湖では各国の首脳による「地球温暖化防止」の議論が始まりました。自然に恵まれた国立公園の中で温室効果ガス増加の影響は感じることは難しいのですが今年はちょっと状況が違うようです。

 毎月のように行われる自然観察会では「タカネスミレを見よう」というように時期毎にメインとなる花の名前をサブテーマにつけているのですが、今年は開花の盛りが1週間から10日ほど早まっている為、お目当ての花がほとんど見られず、次回予定している種類が主役になってしまうこともあり自然解説のリーダーを慌てさせています。冬場の降雪量が記録的に少なかったこと、梅雨に入っても本格的な降雨が見られず、高層湿原の池塘も水位が下がっているのが少し気になります。

 おりから八幡平ビジターセンターでは「環境問題に関するパネル展」を開催中です(8月末まで)。その中で強調されている生物多様性を守る中核としての役割を国立公園で果たしていくためにも、今後の八幡平のちょっとした変化も逃さないようにしていきたいと思います。


八幡平VCでの環境問題パネル展示。現在のペースで地球温暖化が進むと地球上の動物の20~30%が絶滅の危機に直面する。

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2008年06月15日高山植物に魅せられる観光客の後方で

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 記録的少なかった積雪量のせいでしょうか? それとも地球温暖化の影響なのでしょうか? 今年の山の花の開花は大変早いように感じられます。八幡平から秋田駒ヶ岳にかけては、このところ高山植物をもとめる方がたくさん訪れるようになりました。そんな時に歩道の脇でかがんで一心に作業に打ち込んでいる集団を見かけることがあると思います。「一体何をしているのか」と怪訝な表情で観光客が通り過ぎます。

八幡平では貴重な高層湿原帯まであと一歩というところまで迫った外来植物群の駆除に八幡平地区パークボランティアのメンバーが取り組んでいます。
秋田駒ヶ岳では一部のカメラマンなどの踏み込みで破壊された火山砂礫帯の植物帯を守る防護ネットを南八幡平地区パークボランティアが張り直しているのです。もうしばらくで八幡沼湿原の水面にミツガシワの白花が映り、秋田駒ヶ岳の大焼砂の斜面にピンクのコマクサが咲き誇ると思いますが、この自然環境を守るための地道な作業が毎年続けられているのです。

八幡平の核心部、八幡沼手前でのセイヨウタンポポ除去作業

風雨の中で秋田駒ヶ岳の焼森周辺でのネット張り直し作業

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2008年05月25日大沼湿原での野鳥観察から皆で環境を考えました。

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 5月25日、朝からビジターセンター周辺は霧が立ち込め、断続的に小雨が降りかかります。八幡平ビジターセンター主催の第一回自然観察会のテーマは「春の野鳥・春の野草・春の虫たち」、日本野鳥の会秋田県支部長の佐藤さんと鹿角在住で長く地元で野鳥観察を続けている田中さんの両名をインストラクターにしての観察会が始まりました。集まったのは一般参加者とパークボランティア合わせ21名。
 
 ビジターセンター前を出発しようとした途端に目の前でアカゲラが飛び、アオゲラが枯枝の上に姿を見せ、一同は大興奮。その後も次から次へと森林性の野鳥たちが姿を見せ、僅か2時間の間に37種類の野鳥を確認することができました。インストラクター達はかすかな囀りを聞くやいなやフィールドスコープで瞬時のうちに小鳥の姿をとらえ、参加者に鮮やかな姿を見せてくれます。
それまで肉眼か、せいぜい双眼鏡でしか野鳥の姿を見たことのなかった参加者
は、その度ごとに思わず大きな歓声を上げ、それで野鳥が飛んで行ってしまう
ことも。

 ビジターセンターに戻ってからインストラクターから観察会のまとめとして、野鳥観察から見た最近の環境変化について話をしてもらいました。
「人間活動が生態系に影響を及ぼし野鳥の生息を困難にしてきている」という
のは長年、野鳥観察を続けてきた方からの厳しい指摘です。

 幸いビジターセンターのある大沼一帯は、天然性のブナとアオモリトドマツが枯れ木・倒木も含め混交し、湿原・湖沼・草原がパッチ状に配置された複雑な構造になっています。今日あらためて多様な野鳥達が生息できる環境の重要性を実感しました。


野鳥の会のインストラクターにかかると、それまで同じに聞こえていた鳥の声が違って聞こえてくるから不思議?

雨が一瞬弱まったかと思うと、梢の先から「オオルリ」の囀りが聞こえてきた。参加者が一斉に双眼鏡を構えた。

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2008年05月13日八幡平地区のパークボランティアさん、今年も始動します

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 国立公園の八幡平地区のパークボランティアの活動の歴史は昭和62年以来、今年で21年目に入ります。湿原の植生回復作業や外来植物駆除ではスポットライトを浴びる前から黙々と地道な活動を行ってきました。

 自然解説活動も民間の有料ガイド活動が盛んになる以前から、先駆的に取り組んできて多くのガイドを育ててきました。

 今年の4月末現在で39名が環境省から認定されており、今なお創立時からのメンバーも数名残って活躍しています。私たち自然保護官事務所でも彼らの存在無くして実際の公園管理は考えられません。

 最近開かれた総会では年間を通しての4本の柱、(1)年間一般活動(2)ビジターセンターガイドウォーク協力(3)独自テーマモニタリング活動(4)ビジターセンター展示協力で活動を行っていくことを確認し、新たに選出された役員さんは「楽しく、仲良く活動していくこと」を協調していました。

今年度の新役員さん達。上田会長代行以下、秋田・岩手の両県から選ばれました。頼りにしています。

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2008年04月11日八幡平が長い冬の眠りから覚めましたが・・・

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 鹿角自然保護官事務所ARの大堀です。八幡平アスピーテライン秋田口の
除雪作業が完了し一般車の通行ができるようになりました。当面8時30分から17時までの時間限定ですが多くの方が残雪の八幡平を楽しみにしておられると思います。4月11日に地元関係者で秋田ルート開通式典を行い、先導車
に続き事務所の車で八幡平見返峠駐車場まで上ってビックリ。従来見上げる
ほどの高さの雪の回廊が驚くほど低く、頂上付近の斜面チシマザサが顔を出している有様です。雪面も硬くしまった感触はなく、水分の多い半融雪状態でした。3月以降の高温寡雪が直接的な原因だと思いますが、微妙なバランスの上に成立しているアオモリトドマツ主体の多雪北方樹林の生態系にどんな影響があらわれてくるのでしょうか?環境省東北地方事務所では全面開通後、4月29日10時から八幡平山頂付近で自然観察会を予定していますので皆さんぜひ
ご参加ください。アオモリトドマツが何かを教えてくれるかもしれません。


みぞれの中での開通式、路肩にはフキノトウが顔を見せていました。

秋田ルートの雪の回廊、一番高い地点でもこの程度

秋田ルート雪解けの早い場所の湿地では水芭蕉が満開、ということはクマもとっくに冬眠から覚めているのでは?

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2008年03月10日知る・・伝える・・守る

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 東北各地のアクティブレンジャーさんの日記からも春のかすかな足跡を感じるようになりました。八幡平エリアでは3月に入っても毎日のように雪が降っていましたが、それよりも融雪の早さがやや勝ってきたかなと思うこの頃です。

そこで今月は大沼地区と乳頭地区でそれぞれ「早春の森での発見と出会い」をテーマにした自然観察会を計画しました。スノーシューやカンジキを使って自由自在に森の中を歩くこと自体はこの時期にしか経験できない楽しさがありますよね。

でも企画した側の本当の思いは参加者の皆さんそれぞれに厳しい自然条件の中での多様な生き物の営みをどうしたら「知ってもらい、周りにその感動を伝え、そして守っていく」ような観察会になるだろうかというところにあります。

表題にあげた「知る・・伝える・・守る」とは昨年の全国野生生物保護実績発表大会で自然環境局長賞を受けた福岡県の高校の活動のテーマですが、見事に自然観察会のコンセプトを表現していたのです。一緒に新しい発見ができるかどうか皆さんの御参加をお待ちしております。

雪上自然観察会
3月16日(日)八幡平大沼周辺  10時~14時
3月23日(日)乳頭温泉郷 空吹湿原周辺 10時~14時


詳細は環境省鹿角自然保護官事務所まで(℡0186-30-0330)


冬越しの為の植物達はどんな努力をしているのでしょうか?(乳頭空吹湿原付近)


八幡平の秋田側にはヤドリギが数多く見られます。生き物同士の生きていくための技がその中に隠されています。(大沼)


大沼周辺はブナからアオモリトドマツへの移行帯にあたりますがその中で巨大なキタゴヨウが見られる地域があります。彼らから貴重な話を聞けるかも?

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2008年02月28日立春すぎた大沼周辺

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 アスピテーライン冬期閉鎖後の八幡平を訪れるのは一部の山岳スキーヤーか温泉場への湯治客に限定されてしまいます。
大沼ほとりのビジターセンターも吹きだまりでは3mを超える積雪量となっており、内部のメンテナンスの時はカンジキをつけても腰まで埋まりながらの作業となります。4月の下旬に予定している開館まで、まだ2ヶ月もありますがこのほど1回目の機械除雪を行いました。バックホーとロータリーにの名人技としか思えない機械操作で雪の壁を切り開いていきます。
その一方で、隣接するキャンプ場の施設でも大量に積もった雪の重みで軒が破損するのを防ぐために地元の山岳会のメンバーに出動してもらって雪下ろしを行いました。彼らの話によると「今年の雪は大したことない。数年前は屋根を掘り出し、雪下ろしでなく雪上げで大変だった」とのこと。
連日風雪の日が続く八幡平ですが、この除雪作業開始が春の訪れの遠くないことを告げているようです。


ビジターセンターまで作業道をつける。1階部分はほぼ雪に埋まってしまっている。

屋根の上の積雪も2mを超えている。低温で雪が堅くしまっておりスコップの柄が数本折れたくらいの重労働。

2月の八幡平頂上付近。「今年の樹氷発達はやや小ぶり」とは盛岡の二神自然保護官の話。 写真提供:岩手山地区PV阿部氏

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2008年01月09日八幡平の自然を守ってきた人達(その1)

十和田八幡平国立公園 鹿角 大堀 拓

 新しい年が明けて来年度に向けての活動準備が始まった鹿角自然保護官事務所に一人の小柄な御老人が訪ねてこられました。澤口茂昭さん。昭和3年生まれ、御年79歳のバリバリ現役の八幡平地区パークボランティアです。新年のあいさつもそこそこに取り出されたのが「八幡平の植物」という自家製冊子。

 八幡平の全てのエリアにわたる詳細な手書き地図上に丹念に書き込まれた植物生育図。それぞれの植物についてその場所での花期、観察上の留意点が表にまとめられています。まさに現地をコツコツ歩いて記録を残してきた澤口さんにしかできない資料に脱帽です。長年地元の小学校、中学校で教師として
働いてきた澤口さんは、ある時に学校行事で登った焼山から八幡平を見て
今まで故郷の自然の素晴らしさに気づかなかった事にショックを受けたそうです。それ以降ずっと八幡平の自然を記録し守る活動を続けておられます。

その澤口さんが残念そうに語るのが「八幡平の植物」の付記欄に「最近見られなくなった」「少なくなった」という記述が増えていること。それと反比例して各地に外来植物が見られるようになってきたこと。盗掘も含め人間活動が主因です。それと年毎に八幡平の紅葉の色の冴えが無くなっているのが気になっているそうです。「地球温暖化の影響じゃないかな」とつぶやかれました。

 八幡平の自然が微妙に変化していることを地元の大先輩に教わりました。


澤口さんが御自身でワープロ打ち、手書き地図をつけた「八幡平の植物」
今年のビジターセンターでの自然観察会で大活躍しそう。

やはり御自身で撮影、編集した「八幡平の植物」ビデオ版を説明する澤口さん。

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